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事故現場の交差点には2022年1月、信号機が設置された=丹波市氷上町常楽
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事故現場の交差点には2022年1月、信号機が設置された=丹波市氷上町常楽
大西穂乃花さんが練習に励んだトランペット=丹波市内
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大西穂乃花さんが練習に励んだトランペット=丹波市内

 「この事故を人ごとと思わないでほしい」-。兵庫県丹波市氷上町の市道交差点で昨年8月30日、自転車で登校中に大型トラックにはねられ、死亡した中学3年生大西穂乃花さん=当時(15)=の父親(47)が、思いを語った。神戸地裁柏原支部は20日の判決で、トラック運転手(54)が安全確認を怠ったことが事故原因と認定した。「ドライバーの2、3秒の不注意で人が死ぬ。自分が被害者に、加害者になったら、と想像して」と訴えている。

 事故から間もなく9カ月。穂乃花さんの遺影の回りには家族写真とともに、同級生や部活の後輩らから贈られた寄せ書きやアルバム、似顔絵が並ぶ。傍らには、練習に励んでいたトランペット。穂乃花さんをしのんで寄せられる花は、絶えることがない。

 まじめで頑張り屋、そして恥ずかしがり屋だった。遅刻もなく、所属していた吹奏楽部の練習も欠かさず出席した。4人きょうだいの中でもとりわけ穏やかな性格で、姉と妹、弟の仲を取り持つ存在だった。

 事故の朝。いつも通り、父親と洗面台の取り合いをしながら髪を整え、時間に余裕を持って身支度を済ませた。家を出る数分前、市内の別の交差点で事故が起きていると、姉から父親に連絡が入った。

 「事故で渋滞しているらしいから、気を付けて行きなよ」。父親の呼び掛けに「うん、分かった」と返し、祖母に見送られて学校に向かった。事故に遭ったのは、その約10分後。全身を強く打ち、搬送先の病院で亡くなった。

 穂乃花さんの父親は「今も体の一部がもぎとられた感覚が続いています」

   ◇    ◇

 神戸地裁柏原支部で20日にあった判決。穂乃花さんの父親と遺影を携えた母親らが傍聴した。

 自動車運転処罰法違反(過失致死)の罪に問われたトラック運転手に言い渡されたのは、禁錮1年4月、執行猶予3年(求刑禁錮1年4月)だった。

 判決によると、運転手は交差点で一時停止後、横断歩道を渡ろうとする穂乃花さんに気付かず左折、衝突した。助手席ドアの下にある「安全窓」は、ステッカーを貼ったアクリル板でふさがれていた。裁判官はこれを踏まえ「大型自動車が左折する際、死角が生じやすくなるという認識が乏しく、その過失は大きい」と指摘した。

 ただ、運転手には罰金の前科があったものの30年以上前で、事故を反省し、2度と運転免許を取らないことを誓っていることなどが考慮され、刑の執行が猶予された。

 実刑を望んでいた穂乃花さんの父親は「事故は誰にでも起こりうるが、(運転手を)許す気持ちには到底なれない。裁判の結果と穂乃花の命の重さは、決してイコールではない」と声を震わせた。

   ◇    ◇

 事故後、現場交差点には信号機が設置された。地元の小中学校の保護者らが、早期設置を求める署名活動に奔走した。穂乃花さんの父親は「たくさんの方が穂乃花を思い、署名を寄せてくださった。本当に感謝している」と語った。

 一方で、交通量の増加に伴う事故を心配した地元住民らはこれまで3回にわたって設置を要望したが、実現しなかった。父親は「穂乃花が痛い思いをしないとできなかった信号なのか」と声を絞り出し、「行政は通学路の危険箇所にできる限りの対策を採ってほしい」と話す。

 交通ルールを守らず危険な運転をするドライバーを見ると、憤りを覚えるという。「悔しい」「何でや」「つらい」。そんな思いがない交ぜになる。まな娘の大切な命を奪われたからこそ、力を込める。「ルールを守り、思いやりを持った運転をすれば、事故は絶対に減る」

■捨てられない娘の自転車 父親が手記綴る

 大西穂乃花さんの父親は判決後、捜査機関に提出した手記を手渡してくれた。

 A4版に5枚、計5202文字。穂乃花さんの人柄や事故当日の様子、被告への思い、一変した生活などについて書かれていた。1カ月を掛けて、涙を流しながら何度も何度も書き直したという。

 穂乃花さんが使っていた通学用自転車のくだりがあった。「事故の瞬間に穂乃花が感じたであろう『驚き』『怖さ』『痛さ』『苦しさ』そして『無念さ』を残された家族が共有するために、未だに廃棄処分する気になれずに自宅で保管しています」と。

 「僕が話すことで交通事故が減るなら」。こう言って取材に応じていただいた。気丈に振る舞いながら「2度と私と同じ思いをしてほしくないですから」と付け加えた。(真鍋 愛)

【中学3年生交通死亡事故】兵庫県丹波市氷上町常楽の市道交差点で昨年8月30日午前7時50分ごろ、自転車で登校していた中学3年生の大西穂乃花さん=当時(15)=が、大型トラックにはねられ死亡した。事故があった交差点は、北側の道路が2020年に歩道付き片側一車線に拡張された。地元住民らが県公安委員会に3回にわたって信号機設置の要望書を提出したが、未整備だった。事故後、市も要望書を提出。地元小中学校の保護者らによる「早期設置」の署名活動には5408筆が寄せられた。信号機は今年1月、運用が始まった。

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