昨年７月、兵庫県丹波篠山市山内町で起きた大規模火災から２４日で１年。市のメインストリートの一つ「二階町青山通り」に近い住宅地で、焼け跡は今も更地のまま。土地利用の方針などは決まっておらず、復興への歩みは道半ばだ。（堀井正純）

　丹波篠山市の大規模火災では８世帯が被災した。市などによると、被災者の多くは市営住宅などで仮住まいを続け、女性１人が市外に転居したという。神戸新聞社丹波総局は火災発生１年を前に、被災者にアンケートを行い、４世帯から回答があった。被災者の大半は高齢で再建を断念したケースも。「生きる希望が見いだせない」「足並みをそろえ早い復興を」。切実な意見が寄せられた。

　「何もかもなくしてしまった」

　火災で焼け出され、市内の城下町エリアの介護施設で暮らす９０代の女性は声を絞り出した。アンケートで回答があった親族からの紹介で、電話取材に応じてくれた。

　火災当時は、１人暮らしだった。「はだしで逃げ出し、何も持ち出せなかった」と振り返る。亡き夫と苦労して建てた家の跡地は、現在も更地のまま。「自宅を失い、生きる希望が見いだせない。向こうへ早く行かせてもらえたら」と声を落とした。２人の息子は大阪や関東で暮らしている。高齢のため、自宅再建は断念した。

　別の９０代女性も再建を諦めた。親族の男性は「市外で暮らす子どもたちは生活基盤がなく、後継がいない」とつづった。火災後、支援してくれた市民やボランティア、市職員らに感謝しつつ「被災者全員が足並みをそろえ、早期の復興を望んでいます」との意見を寄せた。

　８０代の父親と暮らしている男性は、自宅再建について「どちらともいえない」と回答。市に対して「土地を一括して活用するなどのアイデア、プランを出し、積極的に関わってほしい」とし、「町の中心部で短時間に広範囲に被害を出したが（略）今後、同じ火災が起こらないためにも、行政、住民ともに、もう一度考えを新たにする必要がある」と訴えた。

　アンケートでは「今でもつらいです。こんなアンケート…気持ちご察し下さい」とのみ記し、今も癒えない心の傷を伝えた被災者もいた。

【丹波篠山市大規模火災】２０２１年７月２４日午後５時１５分ごろ、丹波篠山市山内町の木工所から出火、周辺の民家に燃え広がり、約１６時間後に鎮火した。火元の木工所を含めた民家など計１０軒が全焼し、焼失面積は延べ２２００平方メートル。焼け出されたのは８世帯１３人で、死者、けが人はなかった。市内外から被災者へ総額２１００万円を上回る義援金が寄せられた。

■市のバックアップに期待　「近畿災害対策まちづくり支援機構」で、被災者支援に携わる建築家の野崎隆一さん

　元の土地で自宅再建したいとの思いがある人がいる一方、土地の一括活用を望む被災者も多い。共通の利害を探りながら、協議の場を持ち始めたところで、住民間の合意形成や復興に向けたまちづくりはこれからだ。被災者が足並みをそろえ、協力しようとしたとき、丹波篠山市もそれなりのバックアップをしてもらえればうれしい。街並みの景観上の問題なども含め、被災者も助かり、丹波篠山市全体にとっても、新たな資源が生まれる復興になるよう、官民で取り組んでいくことが必要だろう。

【野崎隆一さん】阪神・淡路大震災で、１級建築士としてボランティア活動に従事。復興に尽力し培ったノウハウをほかの被災地へ伝えている。２０１５年１月に発生し、木造の店舗や民家計１２棟が全半焼した城崎温泉火災でも、住民らによるまちづくりを支援した。神戸市東灘区在住。７８歳。