農家の高齢化などに伴う人手不足を背景に、兵庫県丹波篠山市は、特産「黒枝豆」の収穫作業などを市職員が有償で手伝うことを認める「黒まめサポーター職員制度」を始めた。地方公務員法では副業は原則禁止。市は市職員が地元の重要な産業である「農」を守ることが、「地域貢献」や「人材育成」につながると考えた。同市以外にも「農業」での副業を推奨する地方自治体は全国で増えつつあり、繁忙期の果樹農家などに市や県の職員が出向いている。（堀井正純）

　１０月下旬の日曜日。市ブランド戦略課の菅原将太さん（２９）は、同市北の豆畑で収穫作業に励んだ。「市役所ではデスクワークが多いので、汗を流すのは気持ちいい。リフレッシュにもなる」とほほ笑む。現場は有機農法の畑。「（農地を耕さず作物を栽培する）不耕起栽培の様子を見るのも面白かった」と感想を口にした。

　同市口阪本の「丹波たぶち農場」では、市農村環境課の山口達成さん（２８）が、アルバイトの若者たちとともに、収穫した枝豆を次々と手作業で脱莢（だっきょう）機に投入した。

　収穫体験ができる観光農園も営む同農場では今年、黒豆を１０ヘクタール栽培。うち６ヘクタールは黒枝豆として販売する。

　山口さんは休日を利用して、１０月に計４日間、畑での作業や枝豆の選別、直売所での客への販売などに携わった。

　客との応対では、収穫時期によって味わい、ゆで時間が変わることも説明した。「品質を守るため、僕なら食べられるのにと思うものも選別されることが分かった」

　菅原さん、山口さんの実家はいずれも非農家。「農都」を掲げる市は「非農家や市外出身の職員が地域の特産品について知ることは、人材育成にもつながる」と期待を寄せる。

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　「黒まめサポーター職員制度」のような、農業分野での副業を後押しする取り組みは県内自治体では初。地方公務員法で公務員が副業をするには首長の許可が必要なため、希望する市職員は総務課への申請書の提出が義務づけられている。

　従事できるのは土・日曜や祝日、平日の勤務時間外。通常業務に支障が出ない範囲で、１週間当たり８時間未満、１カ月当たり３０時間未満などの条件を設けている。黒枝豆だけでなく、山の芋や丹波栗、米なども対象になる。

　ここ数年、丹波篠山市に先行して、副業基準に農業を明記する自治体が増えている。ミカンの産地で名高い和歌山県有田市は一昨年、日本一のリンゴ産地である青森県弘前市は昨年に導入。副業先は、それぞれ繁忙期に人手不足となるミカン農家とリンゴ農家に限定している。

　今年に入って長野県、山形県などでも制度が新設され、丹波篠山市を含めると１０自治体を超える。

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　市職員２人が働いた「丹波たぶち農場」の田渕泰久専務（４４）は「人手はいくらあってもよい。来年もぜひ来てもらいたい」と語る。同農場では繁忙期の１０月、季節ごとに全国を巡りながら働く若者たちのためにアパートを用意。今年も１４人を住み込みで雇い、シーズンを乗り切った。「市内で求人を出しても、１０月は若手がなかなか集まらない」ことが背景にある。

　ハローワーク篠山によると、黒豆関連の１０月の求人は例年３０～５０人くらいで、今年は約４０人。時給は千円程という。丹波篠山市で新制度を利用した職員は現在１０人で、公務員だけではなかなか人手不足解消にはつながらない。

　弘前市でも、リンゴ農家で副業した職員は昨年が３４人、今年が１２人。同市は「農業の副業が民間にも広がれば」と期待を寄せる。

　丹波篠山市は「市が職員にあっせんすることはできないが、今後、職員と人手を必要とする農家をマッチングする方法も検討したい」としている。

【黒枝豆】おせち料理に使われる黒豆の高級品種「丹波黒」を完熟前に収穫した枝豆。丹波篠山市内の黒豆農家は２０２１年度で２９９２戸。生産面積は７８５・５ヘクタールで、うち２２５・７ヘクタールが黒枝豆として収穫された。刈り取りや葉落とし、莢（さや）もぎなどの作業は１０月のほぼ１カ月に集中する。黒枝豆は近年人気が高く、京阪神から多くの観光客が来訪。市内の小規模農家では、家族や親類などが総出で作業する。大規模農家ではアルバイトを雇って繁忙期に対応している。

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