街角に止まった１台の車。後ろの扉を開くと大小、色とりどりの絵本がずらり。試し読みでも、お買い上げでも、気になるものを手に取って。寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。「移動本屋」が丹波を走る。（秋山亮太）

　走る絵本の店は、兵庫県丹波市氷上町絹山のライブラリーカフェ「ｍａｍｉｍｕｍｅｍｏ　ＢＯＯＫ　ＢＯＯＫ」（マミムメモ・ブックブック）を営む足立真美さん（４２）、光洋（みつひろ）さん（４１）夫妻による取り組み。２０２０年から毎月３、４回ほど丹波市内を中心にイベントなどに出店している。

　車の本棚に並ぶ絵本は足立さん夫妻が親の目線から子どもたちに読んでほしいと選んだラインアップ。子どもは目の前の選択肢から自分で選んだ本が納得できるといい、真美さんは「保護者と子どもの両者が買ってよかったと思える商品の幅になっている」と説明する。納得して購入してほしいと、全ての本で試読用を置く。

　移動本屋を始めたきっかけは学生時代の恩師から長女の出産祝いにもらった絵本「大きなかぶ」だった。子どもと一緒に改めてじっくりと読んで「登場人物の豊かな表情や絵の美しさに気づいた」という真美さん。３人姉妹を育てる中で冊数も増え、絵本の魅力にのめり込んでいった。

　真美さんは小さい頃から店を開きたい夢があった。まずは移動販売からと、２０年２月、車を購入して移動本屋をスタート。だが新型コロナウイルス禍のため、デビュー予定だったイベントが中止になるなど影響が大きく、出店先を探しつつ、代わりに絹山地区の自宅前を開放して絵本などを手に取れるようにした。

　思うような船出でなかった半面、真美さんは「本を手に過ごせる場所の意義を感じられた」と話す。コロナ禍で学校は休みとなり、市内の図書館も休館。普段から最寄りの図書館は、絹山地区の小学校区外にあり、「子どもたちが家以外で過ごせる居場所づくりにもなった」。子育てで書店に行きにくい人にとって少しでも便利になれば、と移動本屋も徐々に活動範囲を広げていった。

　近所や知り合いから本が寄付されるなどして種類も増えたため、２２年７月、光洋さんの祖父がかつて工房として使っていた倉庫をリノベーションしてカフェを開いた。店名の「マミムメモ」は足立さん一家の５人の名前「真美、光洋、むぎ、めい、もな」の頭文字をとった。３人の子どもの居場所となり、地域とふれあう場になってほしいという親心が込められている。

　木が香る店内は本棚に囲まれ、絵本や小説、漫画、雑誌などが自由に読める。子育ての息抜きの場にと「キッズスペース」も設置。光洋さんがこだわり抜いて作ったスパイスカレーやクラフトコーラもファンが多い。好きな漫画を読破したり、放課後に友達と遊びに来たり、お茶会で談笑したり。訪れる人たちは思い思いに時間を過ごす。

　「気軽にのぞいて、のんびりしに来て」と光洋さん。真美さんも、ゆったりと過ごせる空間を大切にしたいとし、「日常から一歩離れて、ほっと息をつける場所に育てていきたい」と語る。

　営業日時や出店情報などは公式のインスタグラムで。