尼崎JR脱線事故は、「最も安全」とされた鉄道の信頼性を根底から揺るがせた。旧国鉄の分割・民営化から十八年。JR西日本は公共性と経済性のはざまで、組織として方向性を見失ってしまったように見える。なぜ、惨事は起きたのか。企業や社会は何を教訓にすべきか。企業統治や危機管理などに詳しい識者に意見を聞いた。初回は、関西大教授の安部誠治さんに鉄道の安全マネジメントなどについて語ってもらった。
◇ ◇
-事故をどう見る?
「脱線のメカニズムは複雑だが、事故の構図は非常に単純だ。京阪神を結ぶ『アーバンネットワーク』でダイヤを強化したが、肝心のインフラは福知山線時代の旧態依然のATS(列車自動停止装置)しか入っていなかった。最新型(ATS-P型)を整備しておけば事故は防げた。まさに、組織の過失だといわざるえない」
-事故後も職員がゴルフや旅行をするなどモラルの低下は目を覆わんばかり。
「次々と不祥事が露呈しているが、すべて根は一つ。つまり、経営陣の安全に対する見方、哲学や思想が非常にゆがんでいる。鉄道は人とシステムの組み合わせであることが理解できていない。人間のミスをバックアップするシステムを整備すべきなのに、職員に厳しい教育を強いればミスを犯さなくなるという、誤った人間観がある。端的な例が日勤教育だろう」
-民営化に問題があったのか。
「かつての公有形態に戻せばいいという問題ではない。民間企業だから安全文化が根付かせられないとも思わない。地域で独占的に経営する輸送企業は、安全を最優先に、適切なサービスを乗客に提供する責任がある。経営者にはその自覚が要る。安全を第一命題に社員教育や設備投資など、すべてにわたって再点検すべきだ」
-国の責任は?
「国土交通省は『事故を起こしたJR西日本が悪い』という態度だが、これは全くおかしい。運賃やダイヤにいたるまで許認可制や届け出制である以上、監督や指導が適切であったかどうか、真摯(しんし)に自己検討すべき立場だ」
-どうすれば企業体質を変えられるか。
「耳の痛い批判的なことを指摘できる社外取締役を入れることだ。JRは消費者代表を参画させるべき。組織の自己革新を待ってもなかなか進まない。批判的報道や株主代表訴訟も大切で、いろんな形で安全文化を定着させる努力が要る。その積み重ねで企業体質を変えていくしかない」(加藤正文)
▼あべ・せいじ 1952年山口県生まれ。大阪市大大学院中退。市大助教授を経て関西大教授。信楽高原鉄道事故を契機に事故調査制度の充実を求める「鉄道安全推進会議」の結成に尽力。現在副会長。著書に「新幹線が危ない!」など。
2005/5/10