エッセー・評論

いっきょん先生のアカデミー抄

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イラスト・金益見
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 この連載は自分自身の大学生活を振り返りながら、「大学時代にやってよかったこと」というテーマでスタートしました。読書の効用や恋愛の醍醐味(だいごみ)、書いて削って磨く卒論などについてさまざまなことを書いてきましたが、大学時代の自分はそんなに大したことはやっておらず、毎日食べることと痩(や)せることばかり考えていました(当時の私が一番知りたかったことは、ケーキバイキングの情報と、楽して痩せる方法!)。

 そんな私に先日、講演の依頼がきました(この連載をきっかけに声をかけていただきました)。テーマは「若者の生き方について考える」。講演を聞きに来てくれたゼミ生から次の日、嬉(うれ)しい感想をもらいました。

     *    *

 「こんにちは。どうしても聞いてほしいことがあったので連絡しました。

 昨日の講演会なのですが、最後に先生が大切にしていることで“自分と向き合うこと”を挙げていたと思います。今まで何回か聞いたことある言葉だったのですが、講演会の後初めてそのことについて考えました。すると意外と自分と向き合う時間がないことに気づきました。課題とかバイトとかをムチと言うならば、疲れた後にYouTubeを見てることが自分に対するアメだと思って、正直面白くないと思いつつ寝るまでの暇つぶしで見ていました。

 それを昨日やめて、分からないなりに自分と向き合うことをしてみました。とりあえず、自分に対して距離をとり、“何がしたいの?”と問うてみました。思った以上に自分のしたいことが出てきたので、昨日中に出来そうなことをやってみました。すると自分が喜んでいるような気がして、少し自分のことが好きになりました。

 話の結論なのですが、昨日の講演会に行って、少しかもしれないですが自分を大切にする方法が見えたかもしれないです。(中略)長文で内容にまとまりがなく申し訳ないのですが、何か人生が変わるような瞬間な気がして連絡しました」

     *    *

 感想をくれたゼミ生は「自分と向き合う」という言葉をきっかけに、今まで考えてきたことの答え合わせができたのだなあと思いました。彼は、すでに言葉を浸透させる準備ができていた。一方、大学時代の自分にはこんな「人生が変わるような瞬間」は訪れませんでした。それは欲望と理想のはざまで、何者にもなれない自分を、友達の褒め言葉で補強しながら生きていたからです。私が自分と本当に向き合ったのは、大学を卒業してから…つまりいつからでも遅くはないのかもしれません。

 それでは、ゼミ生の感想に出てきた講演会でのお話を、最後にここにまとめたいと思います。

     *    *

 「自分が大切にしているものは、言語化せずに、形にせずに、心の中にある時が一番そのままを保てる気がします。外に出して評価された瞬間、全部が否定されたような気持ちになって、自分を見失いそうになる。

 だから、テクニックを磨くんだろうなあと思います。テクニックは練習したら上達するし、ある程度上達したら、後は経験でなんとかなる…だけど、テクニックは鎧(よろい)であって、中身ではありません。一番大切なのは、“自分と向き合い続ける”ことです。

 自分が自分をいつでも見ています。自分に嘘(うそ)をついていないか。自分に失礼なことをしていないか。人が見ていないところでしょーもないことをしていないか。

 自分が哀(かな)しい思いをしないように、自分をいつでも信じるために、才能とか運とかよくわからないものに惑わされないこと。できたことを自信にすること。できなかったことを克服するにはどうするべきか丁寧に考えること。そして、行動を続けること」

 今でも食べることと痩せることは毎日考えていますが(笑)、自分と向き合った先にあったのは、神戸新聞の連載でした。ありがとうございました。(イラストも筆者)

【金益見(きむ・いっきょん)】神戸学院大人文学部講師。博士(人間文化学)。1979年大阪府生まれ。大学院在学中に刊行した「ラブホテル進化論」で橋本峰雄賞を受賞。漫画家にインタビューした「贈りもの」、「やる気とか元気がでるえんぴつポスター」など著書多数。

2020/3/11

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