エッセー・評論

もらった種とまいた種

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イラストレーターWAKKUNこと涌嶋克己さん
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 ボクは20歳の夏に恋をした。YMCAのキャンプに行った時だった。

 1人の女の子が目に留まり、恋に落ちた。当時ボクはYMCAのフォークソング同好会のリーダーをしていたのだが、ラッキーなことに彼女を含めた3人の女の子たちがしばらくして、会に入ってきてくれた。

 やがてコンサートが近づくにつれ、練習がふえてくるのだが、ボクは変に彼女を意識してしまい、何だかぎこちない。そんな接し方をしてしまう自分自身の心がいやだった。

 ある日、どういうきっかけか、彼女と2人だけで会うチャンスがやってきた。

 日増しに募るこの重い恋心を思い切って打ち明けよう!と思った。

 2人でベンチに腰をおろし、音楽の話をしていて、それがとぎれた時。

 「あのう、えーとボク、実は、君のことが好きになっていて…」と告白を始めると、「えっ、あっ、私、あなたのこと、男性として意識したことないし…。それに、私、彼がいるし」との返事。

 ボクはあわてて「あっ、そう、ごめん! そんなこと気づかずで、ホンマ、ごめん…」

 ボクは失恋してしまった。

 それからは日々、もんもんとして悲しくて、心が重たく、普通でいられないでいた。

 でもコンサートを成功させるためには、彼女を含めたみんなで力を合わせなければ、いいコンサートにならない…。

 そんな時、ボクの親友の顔が浮かんだ。大学の漫研の親友、小池くんの顔だ。

 彼とは、うれしいことも悲しいことも何でも話せ、互いの人生の夢を話し合う仲だった。

 彼は後に「嗚呼!!花の応援団」の大ヒット漫画を生み出すことになる、どおくまんプロの小池たかし氏である。

 大阪の彼に電話をし、わざわざ神戸に呼び出し、長田区の観音山のベンチで話を切り出した。

 好きになった彼女に告白して、ダメだったことを…。でも、コンサートは成功させたい。そのためにはみんなで気持ちよく練習したいことを…。

 「世界中で小池! お前だけがボクの本当の心の奥のこと知ってるので、この気持ちを、しっかり受けとめ、あずかってくれへんか!」

 そう懇願すると、「分かった! オレがあずかった。こうやって、しっかり受けとったから安心してくれ!」と言ってくれた。

 その日から、ホントにボクの心は軽くなり、みなと気持ちよく練習できるようになり、コンサートも成功できたのだ。

 2カ月ほどして、同好会のみなと元町で会い、それぞれ別れて帰る時、たまたま彼女と方向がいっしょだったので2人になり歩いていると、フト彼女はボクにこう聞いてきた。

 「前に、私のこと、好きって言ってくれたよね?」

 「あっ…うん!」とボク。

 「その時、私のこと、どう見えてたの?」

 「うん、正直ボクは君がまぶしくて、直視ようせんかった」とボクが言うと、彼女は「えっ、ホント? じゃあ、今、私がワックンのことまぶしくて、直視できないって言ったら…」と、ホオをあからめ言ってきた。

 そして、ボクたちはつきあうことになった。

(涌嶋克己、イラストも)

【わくしま・かつみ】1950年神戸市長田区生まれ。画家、イラストレーター、絵本作家。86年から個展やグループ展を開催。WAKKUN(わっくん)の愛称で知られる。同区在住。

2020/7/8

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