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兵庫人 第16部 ものづくりの魂

(1-1)見果てぬ夢 150億光年先の宇宙へ
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反射望遠鏡「すばる」のミニチュアを前にした技術者の伊藤昇さん(左)と三神泉さん=尼崎市塚口本町8、三菱電機通信機製作所(撮影・山崎 竜)
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反射望遠鏡「すばる」のミニチュアを前にした技術者の伊藤昇さん(左)と三神泉さん=尼崎市塚口本町8、三菱電機通信機製作所(撮影・山崎 竜)

反射望遠鏡「すばる」のミニチュアを前にした技術者の伊藤昇さん(左)と三神泉さん=尼崎市塚口本町8、三菱電機通信機製作所(撮影・山崎 竜)

反射望遠鏡「すばる」のミニチュアを前にした技術者の伊藤昇さん(左)と三神泉さん=尼崎市塚口本町8、三菱電機通信機製作所(撮影・山崎 竜)

■「すばる」知恵が形に

 標高四、二〇五メートル、ハワイ島・マウナケア山頂。空気は乾燥して澄み切り、昼の空は吸い込まれそうなほど青く、夜空の星々は瞬きもしない。

 そんな美しい情景から遠く宇宙に思いをはせる、二人の技術者が尼崎にいる。三菱電機通信機製作所の伊藤昇(57)と三神(みかみ)泉(53)である。

 二人が若き日のエネルギーをつぎ込んだのは、マウナケア山頂に当時世界一の八・二メートル反射望遠鏡「すばる」を建設するプロジェクトだった。

 「より遠くの宇宙を見たい」「より精密に構造をつかみたい」。天文学者の悲願。しかし、計画が浮上した一九八五年当時、日本の持つ最大の望遠鏡は、岡山にある観測所の一・八八メートル。これでは最先端の研究はできない。

 国立天文台は、観測条件の良いハワイに着目。反射鏡の口径八メートル、目標百五十億光年先とする構想を打ち出した。

 「この世の中で誰もやっていない分野。ぜひチャレンジしたい」。三菱電機が全システムを請け負い、伊藤と三神の技術者魂は奮い立った。

 直径八メートルの反射鏡の厚さはわずか二十センチ。自重で簡単に変形し、精度に狂いが出てしまう。

 二人が試行錯誤の末に行き着いたのは、鏡を二百六十一本の支持棒で支え、精密制御することだった。

 変形を自動的に検出して修正する。「変形しやすい」弱点を逆手に取って、「変形を直しやすく」した。「能動光学」という考え方だ。

 すばるは構想から十三年たった九八年十二月二十四日、星の光を初めてとらえた。「ファーストライト」である。

 「これぞ技術者冥利(みょうり)」と伊藤が言えば、三神は「仕事に育てられた」。職場では長い間、「二人で一人前」と呼ばれ、切磋琢磨(せっさたくま)してきた仲だ。

 在籍する通信機製作所の源流は、三七年に神戸製作所で始まった無線機製造だ。四〇年、現在地に移転。五三年に独立事業所となり、衛星通信機器、レーダー機器などを世に送り出してきた。

 「ここにある進取の伝統に影響された」。いま伊藤は主管技師長、三神は副所長。後進を育てる立場になった。「技術屋に必要な三要素。それは資質、努力、そして気力」

 知恵を形に変え、価値を生み出す。ものづくりの本質はいつの世も変わらない。技術者たちが未知の分野に乗り出そうとし、一方で、職人たちが匠(たくみ)の技を発揮する。

 すばるが映し出した、はるかかなたの星たちが、新技術の行く先を照らしている。(敬称略)

2008/7/6
 

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