新兵庫人 第16部 ゴルフとともに
さわやかな出迎えに、少し拍子抜けした。「諸見里(もろみざと)です。よろしくお願いします」。諸見里しのぶ(23)は折り目正しく頭を下げ、南国の瞳に笑みをたたえていた。
前日、神戸で開かれた女子ゴルフトーナメント。諸見里は、最終ラウンドで一時トップに立ちながら結果は2打差の4位。今季初優勝を逃した。こういう時、大抵のアスリートはあまり機嫌が良くないのだが‐。
「きのうの夜(神戸・元町の)南京町でゴハンを食べたんです。神戸って楽しめる場所が多いですよね」。前日の無念を感じさせない振る舞いが可憐(かれん)だ。
沖縄県名護市出身。中学2年生でプロ大会の予選を通過し、岡山・おかやま山陽高進学後、3年生の時にプロのトーナメントで3位。卒業してプロ転向後の2007年、史上2番目の若さ(21歳)で日本女子オープンを制し、メジャータイトルを獲得した。そして昨季はツアー6勝、賞金ランキング2位。黄金期の女子プロゴルフ界で王道を歩む。
神戸との出会いは高校生の時。コーチの江連(えづれ)忠(41)が六甲国際ゴルフ倶楽部(神戸市北区)内にゴルフアカデミーを開設し、諸見里の練習拠点になった。高校卒業後は岡山から住まいを移し、生活の拠点も神戸に。「トンネルを抜ければゴルフ場。都会でこんなにいいゴルフ環境はない」とうなずく。
毎週毎週続くトーナメント。シーズン中はオフらしいオフもないが、張り詰めた糸を緩める場所は「お城」。中でもお気に入りは「姫路城」。時間が空いたときに、ふらりと足を運ぶ。
「歴史が好き。お城に行って昔の人の暮らしを想像するのが楽しい。今流行の『歴女』? よくそう言われるけど、わたしは小さいころからですよ」。中学生の時、試合の帰りに神戸の「五色塚古墳」に立ち寄ったほど。確かに一過性の「歴女」でひとくくりにするのは失礼か。
気分転換と言っても、やっぱりゴルフにつながる。戦国時代の合戦を18ホールに置き換え、パーセーブで我慢する時、強気に攻め込む時を見極める。上位と差があれば「下克上」を思い起こし、奮い立たせる。ちなみに自らを重ねる武将は「鳴くまで待とう」の徳川家康。実際、競技が3日間の時よりも、粘りが必要な4日間の方が強い。
昨季、小差で逃した賞金女王、世界レベルの大会での上位進出と目標は無限。身長160センチと決して大きくない背中にファンの期待を感じ、今週もまた「戦場」に向かう。(敬称略)
2010/7/4