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新兵庫人 第21部 本の森から

(1-1)出版の水脈 人と時代を見つめて
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本は文化、と平尾隆弘さん。「だけど、ビジネスの側面が欠如したらダメ。いい本でも待っていたら売れない」=東京都千代田区紀尾井町、文藝春秋(撮影・西岡正)
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本は文化、と平尾隆弘さん。「だけど、ビジネスの側面が欠如したらダメ。いい本でも待っていたら売れない」=東京都千代田区紀尾井町、文藝春秋(撮影・西岡正)

本は文化、と平尾隆弘さん。「だけど、ビジネスの側面が欠如したらダメ。いい本でも待っていたら売れない」=東京都千代田区紀尾井町、文藝春秋(撮影・西岡正)

本は文化、と平尾隆弘さん。「だけど、ビジネスの側面が欠如したらダメ。いい本でも待っていたら売れない」=東京都千代田区紀尾井町、文藝春秋(撮影・西岡正)

 「文春ジャーナリズム」という言葉がある。司馬遼太郎は、文藝春秋を大正期に創業した菊池寛、戦後の池島信平らを挙げ、「地面のジャーナリズム」と形容した。思想や論、権威にとらわれず、事実や好奇心に重きを置く編集姿勢を指す。

 その伝統は数々の作品や企画、スクープとして結実し、文春は戦後の日本で独自の存在感を放ってきた。

 菊池から数えて11代目の社長、平尾隆弘(64)は、社内には文芸と春秋という、性格の異なる二つの文化が流れているという。

 「個人や自分に向かうのが文芸。春秋は批判力をもって時代や世界を見つめる。この二つが往復運動しながら総合されるのが理想ですね」

 平尾は大阪・千里山に育ち、当時、神戸市灘区にあった神戸市外大(1986年に西区に移転)で学んだ。本と雑誌漬けの青年はワンダーフォーゲル部に入り、「六甲山がホームグラウンドになった」。

 外大の立つ丘から海のきらめきを見つめた。テントを張った菊水山で夜景にため息をついた。英会話力を試そうと、港に出掛けて臆せず外国船員に話しかけた。

 「神戸は開放的で気持ちを明るくする街。トポス(場所)の力が僕の感受性に影響して、編集者として生きる糧を与えてくれた」

 入社は70年。女性誌や週刊誌、月刊誌で編集長を歴任。若いころからこだわり続けたのが、「本」だった。

 雑誌で書評欄を担当し、著者インタビューを重ねた。一方、本の流通過程を追うルポ、印刷や製本、装丁など本に関わる人々のインタビュー…。企画をひねり出しては、自ら取材して書いた。

 本は文化であり、ビジネスでもある、この不思議な存在‐。「好きな本、いい本、売れる本。送り手側からみれば、この三つが1冊に重なってほしい」。しかし、いい本だから売れるとは限らず、嫌いな本でも買う人はいる。

 本が売れない時代。だが、「活字離れといわれるが、経営的には広告料収入の低下の方が問題。書籍、雑誌の部数は下げ止まり、いずれ回復する」。そんな実感がある。

 現場主義の平尾がこだわるのは、ずばり編集力だ。「出版社の本質は、コンテンツ(内容)の生産と販売。文芸と春秋という方向で、自分たちのスキルを磨き続ける姿勢は、これからも変わらない」

 世は出版不況の真っただ中。倒産や廃業で国内の出版社の数は4千を割った。しかし、本の豊かな森には、個性あふれる出版人をはぐくむ水脈がある。(敬称略)

(編集委員・加藤正文)

2010/12/5
 

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