連載・特集 連載・特集 プレミアムボックス

世界×兵庫人 第3章 遠山恵 広瀬未来 大江千里

  • 印刷
ハーレム地区にある「アポロ・シアター」の前に立つ遠山恵=ニューヨーク市マンハッタン 地下のライブハウス。さまざまな人種の観客が彼女を見つめる=ニューヨーク市マンハッタン エンパイアステートビルが向こう岸に見える公園で、空を見上げる大江千里=ニューヨーク市ブルックリン トランペットに思いを込める広瀬未来=ニューヨーク州オールバニ
拡大

ハーレム地区にある「アポロ・シアター」の前に立つ遠山恵=ニューヨーク市マンハッタン

地下のライブハウス。さまざまな人種の観客が彼女を見つめる=ニューヨーク市マンハッタン

エンパイアステートビルが向こう岸に見える公園で、空を見上げる大江千里=ニューヨーク市ブルックリン

トランペットに思いを込める広瀬未来=ニューヨーク州オールバニ

  • ハーレム地区にある「アポロ・シアター」の前に立つ遠山恵=ニューヨーク市マンハッタン
  • 地下のライブハウス。さまざまな人種の観客が彼女を見つめる=ニューヨーク市マンハッタン
  • エンパイアステートビルが向こう岸に見える公園で、空を見上げる大江千里=ニューヨーク市ブルックリン
  • トランペットに思いを込める広瀬未来=ニューヨーク州オールバニ

ハーレム地区にある「アポロ・シアター」の前に立つ遠山恵=ニューヨーク市マンハッタン 地下のライブハウス。さまざまな人種の観客が彼女を見つめる=ニューヨーク市マンハッタン エンパイアステートビルが向こう岸に見える公園で、空を見上げる大江千里=ニューヨーク市ブルックリン トランペットに思いを込める広瀬未来=ニューヨーク州オールバニ

ハーレム地区にある「アポロ・シアター」の前に立つ遠山恵=ニューヨーク市マンハッタン

地下のライブハウス。さまざまな人種の観客が彼女を見つめる=ニューヨーク市マンハッタン

エンパイアステートビルが向こう岸に見える公園で、空を見上げる大江千里=ニューヨーク市ブルックリン

トランペットに思いを込める広瀬未来=ニューヨーク州オールバニ

  • ハーレム地区にある「アポロ・シアター」の前に立つ遠山恵=ニューヨーク市マンハッタン
  • 地下のライブハウス。さまざまな人種の観客が彼女を見つめる=ニューヨーク市マンハッタン
  • エンパイアステートビルが向こう岸に見える公園で、空を見上げる大江千里=ニューヨーク市ブルックリン
  • トランペットに思いを込める広瀬未来=ニューヨーク州オールバニ

 深夜0時半。週末でもないのに、黒人や白人、ラテン系など50人ほどの若者が、グラス片手にステージを見つめる。

 「You are next!(この次だからね)」

 黒人の司会者にそう告げられた直後、彼女の頭は一瞬、真っ白になった。ここはアメリカ東海岸、ニューヨークはマンハッタン島にある地下のライブハウス。この夜のために練習してきたソウル歌手チャカ・カーンのヒット曲を、直前の出演者が歌い始めたのだ。

 6月、2年間通ったブルックリンの音楽学校を卒業した。「あの日から今夜のステージを待ちわびてきたのに…」。何を歌えばいいのか。考えるうちに曲は進む。もう時間がない。出番が来た。

 紫色のスポットライトの中央に立つ。大きく息を吸い込むと、ジャズの名曲「マイ・ファニー・バレンタイン」を歌い始めた。ソウルやR&B系のクラブには似合わないような重厚な曲だ。だが彼女は演奏の前、バンドのメンバーにひと言ささやいていた。「アップテンポのボサノバでね」と。

 きょとんとしていた観客も、軽快なテンポに、だんだんのってくる。サックスのソロの後、彼女の持ち味である高音が響き渡る。客は総立ち。両手を上げ、興奮を抑えきれない黒人もいる。

 この日一番の歓声だった。

               ◇

 「Pure Voice(澄んだ歌声)」。19歳で単身、郷里の篠山市からニューヨークにやってきた彼女‐遠山恵(22)の歌声を、あるジャズ歌手はこう評した。4度のオーディションの末、夢だった黒人音楽の聖地「アポロ・シアター」への出場を果たし、日本で歌手デビューの誘いもある。

 「自分が黒人音楽で成功するただ一人の日本人かもしれない」。夢はまだ、始まったばかりだ。

               ◇

▼大江 千里 51歳、なお「夢の途上」

 奇妙な熱気に包まれた街‐と言えばいいだろうか。

 ニューヨークでは毎晩、バーで、カフェで、ジャズライブが繰り広げられる。地下鉄の車内では、黒人の子どもたちが即興でラップを始める。街中を歩くと、メキシコ人のギターから哀愁の音色が聞こえてくる。

 ジャンルも人種もごちゃ混ぜになった熱気が、体にまとわりつく。けれど、それは決して不快なものではない。体の中で眠っている好奇心をも呼び覚ましてくれる。

 「格好悪いふられ方」「ありがとう」。関西学院大在学中の1983年にデビューし、80~90年代のヒットチャートをにぎわせたシンガー・ソングライター大江千里(51)。彼も、その奇妙な熱気に魅せられた一人だ。

 5月18日、大江は4年半かけて、マンハッタンにあるジャズの音楽大学を卒業した。世界中から集まった70人の同級生の中で最年長、そして最も遅い卒業だった。

 「『これから夢を追うぞ』ってまぶしいくらいの連中の中に、1人だけ『老眼で黒板の字も見えません』ってなやつが交じってた」

 大江は苦笑しながら、ふた回り以上年の離れた同級生との学生生活を振り返る。10代のころから、ポップスを書きつつ胸にためていたジャズへのあこがれ。47歳のときのある経験が、彼をニューヨークへと向かわせた。

 今月31日、全米でアルバムを出す。タイトルは「boys mature slow(少年はゆっくりと成長する)」。10曲すべてを自ら作曲し、バンドとともにジャズ・ピアノを奏でている。9月6日の52歳の誕生日には、日本盤も発売する予定だ。

 「次の夢は全米ツアー。愛犬を連れて、アメリカ中でライブをしてみたい」。“boys”らしい笑顔を見せる。

▼広瀬 未来 「無の境地」で自分の音を

 神戸市東灘区出身のトランペッター広瀬未来(みき)(28)がこの街に足を踏み入れたのは、遠山恵と同じ19歳のときだ。甲南中学でジャズと出会った。ボストンの名門バークリー音楽大の奨学生の権利を蹴り、混沌(こんとん)の中に飛び込んだ。

 いま、10を超えるバンドで活躍し、「即興音楽」と向き合う。ジャズでは主題の後、それぞれのパートがソロを奏でる。どんなメロディーを吹くか、事前に考えず、その場に浮かんだイメージを音に変えていく。

 「ジャズってね、お笑いみたいなもんやと思う。一つの楽器が何か言って、『それ面白いやん』ってみんなで突っ込む。その間の取り方一つで面白いか、つまらんか、決まる」。ニューヨークでは“ボケ方”も“突っ込み方”も多様で、そこが面白い。

 「いつか、無の境地で吹けるようになりたい。一生かかるかもしれない。そのために吸収しなければならないことは、まだまだある」

               ◇

 連載「世界×(かける)兵庫人」の第3章は、ニューヨークで音楽と向き合い、夢の途上にいる3人にスポットを当てる。=敬称略=

(上田勇紀)

2012/7/17
 

天気(10月27日)

  • 23℃
  • ---℃
  • 10%

  • 20℃
  • ---℃
  • 50%

  • 23℃
  • ---℃
  • 10%

  • 23℃
  • ---℃
  • 20%

お知らせ