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いのちを学ぶ

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約20年前の「七生事件」について語る元教諭の日暮かをるさん=東京都内
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約20年前の「七生事件」について語る元教諭の日暮かをるさん=東京都内

 約20年前、東京都立七生養護学校(当時)が取り組んでいた障害児への性教育を都議会議員らが非難し、教員らが処分される事案があった。訴訟に発展し、「七生養護学校事件」と呼ばれる。当時の同校教員、日暮かをるさん(73)は「子どもたちに伝えるための授業が必要」と当時と変わらぬ主張を続ける。日暮さんに七生養護学校事件を振り返ってもらい、性教育の現状をどう考えているのかを尋ねた。(末永陽子)

 -事件の発端は。

 「2003年7月の都議会で、性教育の授業が『世間の常識とかけ離れている』と批判されました。直後、複数の都議らが学校に乗り込み、教材などを持ち去りました。その日から都教育委員会の担当者らが学校を訪れ、見張られるような毎日。なぜ私たちが性教育に力を入れるようになったのか。経緯や長年の試行錯誤、保護者の思いなどを話す機会がほとんどないまま処分が下されました」

 -学校で「性の学び」を始めた理由は。

 「知的障害のある小学生から高校生までが通っていました。その中で思春期を迎え、体や心の変化に戸惑う子が多かった。生徒同士が性的関係を持ったり、子どもたちの間で性的ないたずらが広がったり。性についてきちんと教えようと、保護者も交えて知恵を出し合い、教材や授業内容を考えていきました」

 -どんな指導を?

 「性器の洗い方や月経、精通、避妊方法、気持ちの変化などさまざまです。成長の過程を説明し、『大人になってるんだね、怖くないよ』と伝えることを重視してきました。体の部位を歌詞にした『からだうた』や、男性器に見立てた注射器で白い液体を噴射する射精キットなどの教材もつくりました。障害の特性から説明だけでは伝わらず、夢精をおねしょと勘違いしてパニックになる子もいたからです」

 -その後、日暮さんら教員たちが訴えた裁判で、最高裁は都議らの行為を教育基本法で禁じる「不当な支配」に当たると認めた。

 「一連の出来事を不当であるとして、教員や保護者約30人で提訴しました。裁判はおおむね勝訴で終えましたが、事件を機に性教育の現場が萎縮したのは否めません。事件から約20年。今はジェンダーの課題や性の多様性が注目され、動画配信サイトで情報を発信する専門家や助産師さんたちも出ています。必要性や重要性が見直されているんだと思います」

 -2018年には、東京都の中学校で再び都議が「不適切」と訴え、都教委が学校側を指導したことも。性教育をめぐっては否定的な意見も根強い。

 「『寝た子を起こすな』という指摘もありますが、出会った子たちは『寝て』いませんでした。自然と覚えるものという人もいますが、子どもたちは会員制交流サイト(SNS)などで情報を簡単に手に入れられる環境にいます。障害の特性から無防備に相手に近づく子もいるため、性的な被害に遭ったり、逆に不審者扱いされたりもする。さらに、支援学校には家庭の事情や過去のいじめなどさまざまな経験から、自己肯定感が低い子もいました。性教育はいやらしいものではありません。『あなたの心と体は大切』と伝えることが、性教育の根幹だと思っています」

2022/1/6
 

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