虐待され、生命の危機が迫る動物を目の当たりにしたとき、私たちには何ができるでしょうか。実は第三者が救出することを認めるような法的な制度は今日の日本には存在しないのだそうです。あさひ法律事務所・代表弁護士の石井一旭氏が解説します。
【相談】散歩で通り掛かる家の玄関先に、鎖で繋がれたまま、ほぼ放置されているような犬がいます。犬小屋はぼろぼろで、周りには糞が散乱。最近は水やご飯も満足にもらえていないのか、汚れた器がそのままになっていて、犬も元気がなくなってきた気がします。一刻も早く痛ましい状況から、ぜひ救ってあげたいのですが、この犬を「保護」していいでしょうか。
■法律的には…第三者ができることは限られています
▽ペットは飼い主の所有物
結論から申し上げますが、こうした場合に第三者がペットを救出できる法的な制度は、残念ながら、今のところ存在しません。ペットはあくまで飼い主の所有物であり、所有者は所有物について他人の干渉を許さない排他的な支配権を有するためです。
もちろん飼い主が虐待やネグレクトを行えば動物愛護法で禁止された犯罪に該当します。有罪判決を受ければ飼い主が刑罰を受けることにはなります。しかし、それによってペットが虐待状況から救出されるわけではありません。虐待対象となったペットを犯罪者となった飼い主から取り上げる制度もありません。逆に、刑事事件化することによって飼い主が逮捕・勾留され、あるいは実刑判決を受けてしまうと、ペットの世話ができなくなってしまいますので、誰が残されたペットを世話するのかという問題が発生することもあります。といって、虐待を放置するわけにもいかず、非常に悩ましいところです。
劣悪な環境に置かれたペットを救うには、法律的には、飼い主に掛け合って、ペットたちの保護や引き取りを求めるしかありません。飼い主が見つからなかったり、見つかっても引渡しを拒否された場合は、現状、第三者はどうすることもできません。
病気・飢餓状態などで虐待やネグレクトを受けていることが明らかであるケースや、多頭飼育崩壊した環境で飼育されているケースであっても、第三者がペットを強制的に保護できる制度は存在しません。そのため、ペットの保護活動に従事する方々や行政の担当職員は、飼い主を探し出し、飼い主を説得する一方、新たな飼い主・世話人・引取先を探すなどして…ときには自己負担で自ら引き受けることまでして…ペットの保護活動を地道に行っている、というのが現実です。
▽緊急事態でも同じなのか?
目の前のペットに生命の危険が迫っているなどの緊急事態であっても、ペットを救い出すことはできないのでしょうか。
まず、無断で他人の所有する建物や敷地に侵入する行為は住居(あるいは建造物)侵入罪に、侵入のためにカギやドア、窓、柵などを壊せば器物損壊罪に、救助の際にペットに怪我を負わせれば動物傷害罪に該当してしまう危険がありますし、ようやくペットを救助できても、飼い主に対する窃盗罪に問われる危険があります。
また、壊した物品の賠償などの、民事上の責任を負わされる可能性もあります。
法律上は、急迫の危難を避けるためにやむを得ずに行われた回避行動については、緊急避難による免責の制度が存在します(民法720条2項、刑法37条1項)。
しかし、ペット救助の場合に必ず緊急避難が成立するわけではありません。緊急避難の成否の判断では、「本当に緊急事態だったのか」「他の手段はなかったのか」「発生した損害が避けようとした損害の程度を超えないと言えるか」など、様々な要件が厳格に審査されます。まさにケース・バイ・ケースです。ですから、「救助行為は緊急避難が成立するから問題ない」と安易に考えて行動に出ることは危険です。
▽今後に向けて
このようなどうすることもできない現状に対して、現場で動物保護活動に取り組んでいる方々から、改善を求める声が強く上がっています。そこで、緊急事態の場合の一時保護制度を新しく設けてはどうか、という議論が盛り上がりを見せています。
イギリスでは、動物虐待で裁判となった場合、判決が下るまでの間、虐待のおそれのある動物は、RSPCA(Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals)という民間団体が一時保護をすることができます。飼い主がどうしても動物を手放さない場合は、2006年動物福祉法に基づいて動物を押収することや、裁判所から動物譲渡命令を出してもらい、適切な人物・団体に動物を譲渡させる、という制度があります。
日本でも同様に、例えば動物愛護管理法第4章の2以下で定められている動物愛護センターに虐待動物を一時保護する権限を与えたり、裁判所が問題のある飼い主から動物愛護センターへの譲渡命令を出す制度の創設を検討するべきではないでしょうか。
最初に述べたとおり、ペットは飼い主の所有物であり、所有権が憲法で財産権として保障されている強力な権利であることはもちろんです。
しかし、憲法29条2項は「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める」と規定しており、財産権は公共の福祉により一定の制限を受けるものと考えられています。
ペット・動物の地位の向上、動物愛護の気風の広まりを背景事情として、ペット・動物を虐待やネグレクト、悲惨な環境から一時的に保護することが公共の福祉に適合するという解釈も可能ではないかと、個人的には考えます。
◆石井 一旭(いしい・かずあき)京都市内に事務所を構えるあさひ法律事務所代表弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。
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