地方都市で暮らす52歳の鈴木さん(仮名)。夫(55歳・会社員)と二人暮らしで、子どもはすでに独立しています。鈴木さんは週4日、1日5時間のパート勤務で、年収はおよそ120万円。夫の収入と合わせた世帯年収は約500万円です。
数年前から更年期障害と診断され、動悸や不眠、気分の落ち込みが続いています。婦人科と心療内科にそれぞれ月1回ずつ通院し、薬代を含め、窓口で支払う費用は月に1万5000円前後。年間にすると18万円ほどになります。さらに最近は、夫も健康診断で血圧と血糖値の異常を指摘され、生活習慣病の治療も視野に入れなければならない状況に。家計簿を見返すたび、「医療費がこれ以上増えたら、老後資金の準備どころじゃない」と不安が募ります。
「パート収入だし、医療費の助成なんて私には関係ないのでは」
そう思い込み、何も調べないまま我慢を続けている人は少なくありません。しかし、医療費負担を軽くする仕組みは働き方や収入額に関係なく使えるものも多く存在します。その代表的な3つを、鈴木さんの世帯を例に、具体的な金額とともに整理します。
■「フルタイム前提」という思い込みが医療不安を深める
日本の医療制度は、健康保険法などに基づき「所得に応じた負担軽減」を行う仕組みになっています。
ところが現実には、「正社員でないと対象外」、「収入が少ないと申請できない」といった誤解が広がり、制度が活用されていないケースが目立ちます。
特に50代女性は、「更年期による体調変化」、「親の介護の始まり」、「自身の老後不安」が重なりやすい世代です。医療費が増えやすい一方で、「これ以上家計を圧迫できない」という心理的ブレーキが、受診控えにつながることもあります。
■医療費を現実的に減らす3つの制度活用
▽①高額療養費制度-「月の上限」を知るだけで安心が変わる
高額療養費制度は、1カ月(同一月)に支払った医療費の自己負担額が、所得区分ごとの上限を超えた場合に払い戻される制度です。申請先は加入している健康保険(協会けんぽ、健康保険組合、市区町村の国民健康保険など)です。
鈴木さん世帯(夫が会社員・世帯年収約500万円)の場合、自己負担限度額は以下の式で算出されます。
8万100円(所得区分に応じた基準額)+(総医療費ー26万7000円)×1%
仮に入院や検査が重なり、月の総医療費が30万円かかった場合を計算してみましょう。
・窓口での支払い(3割負担):9万円
・自己負担限度額:8万100円+(30万円-26万7000円)×1%=8万100円+330円=8万430円
⇒払い戻される額:9万円-8万430円=9570円
つまり、窓口では9万円を支払いますが、後日9570円が払い戻されるため、最終的な自己負担はおよそ8万430円で済みます。
▽②自立支援医療制度(精神通院)-通院費が原則1割に
更年期以降に増えるうつ病、不安障害、不眠症などで心療内科・精神科に通院している場合、自立支援医療制度(精神通院医療)が使える可能性があります。医療費の自己負担が原則3割から1割に軽減され、さらに所得に応じて月額の自己負担上限額(0円~2万円)が設定されます。
なお、対象となる病名や医療機関は指定制のため、主治医への確認が必要です。
▽③医療費控除-年末に“戻ってくるお金”を見逃さない
1年間(1月~12月)に支払った医療費が10万円(または所得の5%)を超えた場合、確定申告で医療費控除が受けられます。ただし控除を受けるにはレシートなどを保管しておく必要がありますので注意してください。対象になるのは、以下のものです。
・診察代・薬代
・通院のための交通費(公共交通機関を利用した場合のみ)
・家族分の医療費(生計が同一なら合算可)
◇ ◇
鈴木さんは制度を知り、心療内科の医師に相談したうえで自立支援医療を申請しました。
「我慢するしかないと思っていた医療費が、コントロールできるものだと分かった」と話します。
医療費の不安は、立ちはだかる「壁」ではなく、情報で越えられる「階段」に変えられます。準備に「早すぎる」ということはありません。
少しでも気になる制度があれば、主治医、市区町村の福祉窓口、加入している健康保険の窓口に確認してみてください。「動こうかな」と思った今が、最初の一歩です。
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。
(まいどなニュース/もくもくライターズ)
























