人気ヒップホップグループ「ET-KING」のリーダーで兵庫県三田市出身の「いときん」(本名・山田祥正(よしまさ))さんが病気で早世してもうすぐ3年。公開中の映画「えんとつ町のプぺル」に、彼をモデルとしたキャラクターが登場して、地元で話題を呼んでいる。生前は古里への貢献に力を入れてきただけに、ET-KINGのメンバーたちはリーダーの思いをかなえようと母校の小学校を訪れ、子どもたちに映画のチケットを贈った。(小森有喜)
いときんさんは同市鈴鹿生まれ。リーダー兼ボーカルとして人気グループを引っ張ったが2018年1月、がん性心膜炎のために38歳で亡くなった。
映画は生前に親交があったお笑い芸人・キングコングの西野亮廣さんが原作・監督を務め、原作絵本は約60万部のヒット作となった。工場の煙で空が覆われ、誰も星があることを知らない「えんとつ町」で、一人の少年が「煙の向こうの空に星がある」と信じて冒険に出るという物語だ。
いときんさんがモデルになったのは、この少年の父親「ブルーノ」。少年に「星は必ずある」と教え続け、物語では行方知れずになっている。少年に向き合う場面では法被を着てカンカン帽をかぶり、そのままの容姿としぐさで振る舞う。
西野さんは映画の公開前、自身のブログでブルーノのモデルを明かし、思いをつづっていた。「星を知らない町で『星がある』と大声で言う人って、どんな人だろう」と考えた時に、真っ先に思い浮かんだのが、いときんさんだった。ET-KINGの曲「さよならまたな」を聴きながら脚本を練り、イメージを膨らませていったという。
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いときんさんは生前、多忙な中でも古里・三田に足しげく帰っていた。市のイベントに参加したり、市の教育基金に寄付したりし、母校の高平小学校(下里)が17年に創立50周年を迎えると、メンバー全員と記念式典で3曲を演奏した。子どもたちも代表曲「ギフト」を合唱して応え、田中智久校長は「どの子も卒業生と知っているヒーローのような存在」と話す。学校の玄関には当時の写真を飾り、毎年の卒業式にはET-KINGの曲を流している。
映画公開前日の24日、メンバーの「コシバKEN」さん(40)「KLUTCH(クラッチ)」さん(42)らが再び同小を訪れた。
「みんなの先輩がモデルになったブルーノが、夢を追いかける大切さを一生懸命語ってるから劇場で楽しんでね」。子どもたちにそう伝え、全校生徒分の映画チケット99枚を贈った。
コシバKENさんは「映画のキャラクターになってすごく誇らしい。地元が大好きなやつやったんでね。これからも高平小学校との縁を大切にしたい」と力強く語った。
■星を知らない町で「星がある」と大声で言ってくれる人
いときんさんをモデルにしたことについて、西野亮廣さんが自身のブログで語った内容の抜粋
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◆ブルーノの台詞を書く時や、ブルーノのビジュアルを決める時に、やっぱり、「星を知らない町で『星がある』と大声で言う人って、どんな人だろう?」って考えるんです。彼なら、皆には震える膝を隠して、「星がある」「見上げよう」という、ともすれば恥ずかしい台詞を、大声で言ってくれそうな気がしました。なので、いときんサンを勝手にブルーノのモデルにさせていただいたんです。
◆(ET-KINGメンバーやマネジャーに)今回の物語の主人公であるブルーノのモデルが「いときん」サンであるということ、脚本執筆中に、ET-KINGさんの「さよならまたな」を何度も何度も聴いていたことを、お伝えさせていただきました。
◆「余命半年」と宣告されてから半年後のライブで、いときんサンがお客さんに向けて「生きろよ」と声をかけられていて、僕、それに本当に励まされたんです。あらためて、いときんサンは「忘れて欲しくない人」なので、映画『えんとつ町のプペル』はメチャクチャ頑張って届けますので、宜しくお願いいたします。
