■布野隆之研究員
イヌワシは、翼開長(よくかいちょう)2メートルに達する大型のワシです。国内では絶滅危惧種に指定されています。兵庫県内では但馬地方に生息します。しかし、生息つがい数はわずか2ペアです。
昨年、県内の1ペアから1羽のヒナが巣立ちました。実に16年ぶりの快挙でした。兵庫のイヌワシに明るい兆しが見えた直後、巣立ったヒナは1カ月で姿を見せなくなり、死亡しました。
16年ぶりに誕生したヒナの死亡は、イヌワシ生息地の「異変」を教えてくれました。その異変は「エサ不足」です。県内のイヌワシは通常、6月上旬に巣立ちます。しかし、16年ぶりに誕生したヒナは、7月上旬に巣立ちました。巣立つ時期が1カ月も遅かったのです。既往の研究により、巣立ちの遅延はエサ不足に起因することが知られています。つまり、16年ぶりに誕生したヒナは、エサを十分に摂食できず、巣立ちが大幅に遅れたと考えられるのです。
エサが不足している限り、イヌワシの繁殖は成功しません。このままでは、近い将来、県内からイヌワシは消失するといわれています。県内のイヌワシを保全するには、エサのノウサギを増やすとともに、ウサギを捕獲するための狩り場を整備する必要があります。そこで、県立人と自然の博物館は兵庫県農政環境部と連携して、「但馬イヌワシ・エイド・プロジェクト」と銘打って、イヌワシ生息地における「エサ不足」の解消を目指し、ノウサギを育む森づくりと、イヌワシの狩り場の創出に取り組もうとしています。
今から10年後、イヌワシは兵庫の大空を舞っているのでしょうか? それとも、コウノトリのように、一度、消失してしまうのでしょうか? 県内のイヌワシは今、大きな岐路に立たされています。
