三田

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ネオンきらめく北新地。ドレス姿の女性が通ると、香水の香りが漂う=大阪市曽根崎新地1
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ネオンきらめく北新地。ドレス姿の女性が通ると、香水の香りが漂う=大阪市曽根崎新地1
毎月変えているネイル。スマートフォンの待ち受け画面は時間割=兵庫県内
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毎月変えているネイル。スマートフォンの待ち受け画面は時間割=兵庫県内
ロングドレスを着るときに合わせる、10センチ近いピンヒール=兵庫県内
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ロングドレスを着るときに合わせる、10センチ近いピンヒール=兵庫県内
昨年給料を貯めて買ったシャネルのピアス=兵庫県内
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昨年給料を貯めて買ったシャネルのピアス=兵庫県内
肌の調子を整えるサプリメントを飲み、自分磨きを欠かさない=兵庫県内
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肌の調子を整えるサプリメントを飲み、自分磨きを欠かさない=兵庫県内

 ネオンサインが通りを照らす。スーツ姿の男性客がビルに吸い込まれていく。ショート丈のダウンコートから脚をのぞかせ、若い女性が誰かと電話していた。大阪・北新地。阪神間の大学に通う鈴木彩加(仮名)にとって、この高級歓楽街がもう一つの学びの場だ。夕方から働き、家に着くのは日が昇る頃。寝ずにそのままオンラインの授業を受ける。「ほんと、バ畜(社畜のバイト版)です」

 昨年11月下旬、初めて彼女に会った。オレンジのスエットにデニムパンツ。髪はヘアクリップでゆるくまとめていた。この日は閉店後の「アフター」明けですっぴん。表情にはあどけなさが残るが、爪はショッキングピンクに艶めいていた。

 兵庫県外の出身。2年前に入学した。日中はオンライン授業やサークル活動に参加し、夕方には「同伴出勤」が始まる。アフターもあるから、帰宅はほとんどが未明。週の半分以上は出勤すると決めている。

 入学前から水商売をするつもりだった。誰かに誘われたわけではない。学生でいられる時間は短い。時給千円前後のバイトより、効率よく稼ぎたい。インターネットや動画投稿サイト「ユーチューブ」で入店方法や仕事内容を調べ、夜の世界へ飛び込んだ。

 県内のガールズバーから始めた。客引きのため、店の前で立っていると、頻繁に行き来する警察官が目に入った。兵庫に土地勘はない。「危険な地域なのかも」と、4日で辞めた。給料の支払いでトラブルにもなった。「ちゃんとした所で働こうって勉強になった」

     ◇

 1年生の年末、神戸・三宮のクラブに入った。接客はロングドレス。客は高所得の中高年が多く、身なりや会話に気遣いを感じた。

 危険な目にも遭った。同伴出勤で70代ぐらいの男性の車に乗ると、ワインとチーズを手渡された。「今から食事するのに?」。思っているうちにラブホテルの駐車場に着いた。すぐに店に電話し、控えるよう対応してもらった。それでも渋る男性に、「おなかすいた~。ご飯食べに行きましょう」と気丈に振る舞った。

 怖かった。だからといって、「辞めよう」とはならない。良いことも悪いことも、いつか自分の力になると思う。社会人じゃなく、学生だからこそ教えてもらえることがある。

 2度目の緊急事態宣言が発令された昨年1月、三宮のクラブは休業になった。店は給料を保証してくれた。

 空いた時間はコールセンターのほか、交際女性などを演じる接客サービス「レンタル彼女」のバイトをした。客は、身分証を提示し会員登録しないと利用できないシステム。会員制交流サイト(SNS)で客を募る「パパ活」より、安全と思った。

 時給3千円。「スーツ着用」など、相手から服装指定がある場合は、オプション料金で3千円がもらえる。今履いているストッキングを売ってほしいと言う人がいた。生活保護を受けながら通う人がいた。「あほな話もするけど、いろんな生活の話が聞ける」。コロナ禍で忙しくなった人と仕事がなくなった人にも会った。「『人生の分岐点ってどこだろう』って考えるようになっちゃいました」

     ◇

 昨年10月下旬、飲食店への時短要請が解除された。各地で夜の店がようやく再開。彩加はさらに給料が高い大阪・北新地のクラブに勤めることができた。日給制で、同伴ノルマは月5回。届かなければ罰金があるが、ひと月で70万円稼ぐことも可能だ。実家の親とはけんかをしていて、学費の振り込みはない。うまくいけば半年分の学費を1カ月で払うこともできる。

 高校時代から投資の本を読んでいた。クラブの客からは経営者目線の話が聞けるし、米国株の選び方を教えてもらっている。今ある時間を最大限に使う。

     ◇

 昨年12月、再び彩加と会った。髪を縦巻きにし、ラメのアイシャドーを施した表情は、オフの日より大人っぽい。

 1Kの彩加の部屋には、ディズニーランドで買った「プーさん」のぬいぐるみが寝ている。小学生の頃からテーマパークが好きで、就職するのが夢だった。そのため、名のある大学を目指した。親にとって自慢の娘になれる、とも思った。

 中高の友人とは連絡し合うし、地元は嫌いじゃない。でも、関西の大学に出てきた。なるべく親から離れたところに行きたかったから。

 幼いころから父が苦手だった。機嫌が悪いと、何かにつけて暴力を振るわれる。2人きりの時だけなので誰も気付かない。母が出掛ける前に泣いて、なるべく祖父母の近くにいるようにした。

 今は二つのサークルに所属し、過去も今の仕事も話せる友達ができた。大学生活はオンラインで始まったが、入学前から周囲と打ち解けていた。

 会員制交流サイト(SNS)に「#(ハッシュタグ)春から○○(大学名)」を付けて書き込み、輪を広げた。勧誘されたサークルの先輩から授業の選び方をアドバイスしてもらった。

 コロナ禍をマイナスには捉えていない。「コロナを言い訳にしたら、もっと不幸になっちゃう」

 友人は「親が悲しまないか」を基準に行動する。でも「私が幸せだったら親も幸せでしょ」。オリジナリティーのある人生がいい。

 週末は、仕事で朝8時に帰っても、3時間寝て、ネイルサロンに行って、友達と遊ぶ。自分の今は百点満点。悩みは、将来やりたいことがありすぎて、選ばないといけないことだ。

 「あ、(北新地の)クラブ、11月末でクビになったんです~。びっくりですよね。体験入店して次のお店探さないと」。肩をすくめて笑った。(喜田美咲)

【バックナンバー】
(2)晴人【下】 三田でやれることから
(1)晴人【上】 友達をつくるのは諦めた

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