三田

  • 印刷
アトリエで模型を前にほほえむ=三田市藍本
拡大
アトリエで模型を前にほほえむ=三田市藍本
風のミュージアムでは新宮作品12点が堪能できる=三田市尼寺
拡大
風のミュージアムでは新宮作品12点が堪能できる=三田市尼寺

 田園に囲まれた山の麓にアトリエが立つ。兵庫県三田市の自然豊かな農村地域。ここから直接、世界とつながっている。

 ニューヨークの超高層ビル、ギリシャ国立オペラ劇場、イタリアの港、ブラジルの銀行、台湾の大学、東京・銀座のエルメス…。世界中に作品がある。

 芸術家、新宮晋。85歳。長年にわたり風や水など自然のエネルギーで動く作品をつくり続けてきた。

 2022年12月21日。アトリエには2日前に海外から帰ってきたばかりの姿があった。約1カ月、イタリアやフランス、ポルトガルを飛び回った。「いろんな仕事が進みました。今回、行かなかったら大変でしたよ」。目を細めてほほえむ。展覧会の準備やクライアントへ提案など複数のプロジェクトが同時に進んでいる。

 三田のほかにパリにも自宅がある。仕事の合間に1週間滞在することもあれば、空港から帰宅して一晩寝てまた同じ空港から飛び立つという多忙な日々を送った。「パリのメトロ(地下鉄)で絵を描いているのは僕だけでした。みんなは携帯電話ばかりで」。パリで思いついた図案を三田のアトリエにメールで送り、スタッフが作った模型の動きを動画で確認する。「軽業みたいなこと」をしながら、旅を続けた。

 ポルトガルのリスボンでは着いてすぐにウエルカムパーティーが開かれ、約90人が集まった。皆、新宮のファンだという。

    

 80歳を超えてなお第一線を走り続ける。19年10月から半年弱、フランスの世界遺産シャンボール城でレオナルド・ダビンチ没後500年を記念した個展を開催。コロナ下でもルクセンブルクやニューヨークに作品を収め、21年にも展覧会を開いた。

 今年7月には大阪中之島美術館で、同い年で世界的な建築家レンゾ・ピアノ(85)と2人の仕事をたどる展覧会「平行人生」を開く。ピアノ設計の関西国際空港に自作を設置してから30年超の付き合いで、現在も11番目となる仕事に取り組む。

 「この年になっても全く飽きることなく、次々とイマジネーションが生まれてくる。よりいいものをつくりたいという、それだけ。今まで誰もやってない世界に踏み込んでいこうと。それ以上に面白いことなんてないですもの」

 大阪府豊中市出身。少年時代のあだ名は「絵描き」で、小学生の頃から遠戚の洋画家・小磯良平(1903~88年)に学んだ。東京芸大絵画科を卒業後、イタリア政府の奨学生としてローマへ留学。そこで絵画から立体へと変わっていった。

 1970年の大阪万博で野外彫刻を制作する一人に選ばれ、30代半ばには米ハーバード大学で客員芸術家として教壇に立った。常設の作品だけでなく、ファッションデザイナーの三宅一生のショーや、世界的なダンスカンパニーを率いた振付家イリ・キリアンの舞台装置も手がけた。

 丸いステンレスの羽根がクルクルと回る。見るからに重そうなさびた鋼が、ゆっくり、力強く動く。同じ素材の鋼でも、優美に、まるで踊っているようなものある。

 県立有馬富士公園(三田市尼寺)の「風のミュージアム」には12基が屋外に据えられている。緻密に設計・加工された人工物が、風を受けて表情豊かに舞い、草木と調和する。作品は「自然からのメッセージをとらえるアンテナのようなもの」。目には見えない風が見えるようになる。

 哲学者の梅原猛は、こう評した。「現代人が忘れている風の美を人々に思い起こさせる。新宮氏は、世界の人に風の流れの意味を知らせる布教師であるといってよい」

 生涯、童心と好奇心を抱き続けている。生涯、アーティスト。

 「生命があふれる地球は宇宙の中でもとびっきりユニークな星で、人間として生まれたことは奇跡。地球の素晴らしさを伝えたい」

 「風の彫刻家」の軌跡をたどる。=敬称略

三田連載三田
三田の最新
もっと見る
 

天気(10月27日)

  • 23℃
  • ---℃
  • 10%

  • 20℃
  • ---℃
  • 50%

  • 23℃
  • ---℃
  • 10%

  • 23℃
  • ---℃
  • 20%

お知らせ