事故で大切な人を失った遺族。人生を大きく変えられた負傷者。現場や自宅で、それぞれの朝を迎えた。
夫浩志さん=当時(45)=を亡くしたピアノ講師の原口佳代さん(60)は25日、兵庫県宝塚市内の自宅マンションから、尼崎へ向かう電車2本を見送った。事故の発生とほぼ同時刻に現場カーブを通過する車両だ。
浩志さんは出勤途中に量販店に立ち寄るため、いつもと違う電車に乗って事故に巻き込まれた。「電車に乗るのを引き留めなかった。自分を責める気持ちは消えない」。目に涙をため「今日は夫を思って悲しむ日。来年もこの日を迎えられるよう、精いっぱい生きます」と最愛の人に誓った。
午前9時すぎ、長女の中村道子さん=当時(40)=を亡くした藤崎光子さん(80)=大阪市城東区=は、事故車両が追突したマンションの壁に手を触れた。
「やっぱり事故の発生時刻は娘と一緒に現場にいたかった」。道子さんの写真が入ったペンダントを握りしめ、「15年は長かった。JR西は保守点検作業員の減少など危険な状態も目につく。本当の意味で安全な鉄道事業者になってほしい」と力を込めた。
重傷を負った福田裕子さん(36)=兵庫県宝塚市=と木村仁美さん(36)=同=は現場から少し離れた線路沿いに並んで立った。新型コロナウイルスの感染拡大で足を運ぶかどうか悩んだが、「今年もここにいると確認したい」と訪れた。
事故発生時刻の午前9時18分。福田さんがそっと手を合わせる。木村さんは静かに目を閉じた。(前川茂之、井上駿、名倉あかり)
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