異人館が立ち並ぶ神戸・北野。観光スポットからは少し外れたところにある洋館で、立派な角をもった1頭のヤギが、塀から身を乗り出しているではないか。目を疑ったが「めぇ~」と鳴いている。人通りの少ない小道を、時折そうやってのぞいているらしい。(鈴木雅之)
白い壁にピンク色の窓が印象的な2階建て洋館は「旧モロゾフ家住宅」という、れっきとした異人館だ。神戸モロゾフ製菓の設立に関わったヴァレンティン・モロゾフ氏が1951年に自宅として建築し、2011年に国の登録有形文化財になった。
02年から、この家には日本人家族が暮らす。
「通りから『カーティス!』って名前を呼ばれると、時々顔を出していますね。近所の子どもたちは楽しんでくれているみたいです」。住人で、飼い主の男性(61)が話してくれた。
名前はカーティス。トカラヤギとシバヤギから生まれた推定9歳のオスだという。6年前、この家の“一員”になった。「私たちが住み始めた時、庭一面、背丈ほどの雑草が生い茂っていて、草刈りをしてもしても切りがなかったんです」
ロバなら食べてくれるんちゃうか。はじめ、動物好きの一家はそう考えた。徳島県にあるロバの牧場に行くと、ロバは鳴き声が大きいと言われ、「その点、この子なら」と勧められたのがヤギのカーティスだった。
元の飼い主が手放し、牧場に引き取られて「おとなしそうにポツンとしてましてね」。かくしてカーティスは神戸へとやってくると、約3カ月で庭の雑草をはんで見事に一掃。庭は今もきれいに保たれる。家族にはありがたがられ、そして、かわいがられている。
ちなみに、カーティスの存在はどれくらい知られているのだろう。
「ご近所の方以外には、あまり知られていないかもしれませんねぇ。いつも顔を出しているわけじゃないんです」
運がよければ、知る人ぞ知る地域のマスコットに出会えるかもしれません。