57年前に中高生だったランナー10人は、半世紀以上待ち焦がれた思いを聖火に込め、一歩を踏みしめた。篠山城跡三の丸広場で24日にあった東京五輪聖火リレー。1964年の同リレーは悪天候で走れなかった「56年目のファーストランの会」が、“幻”を現実にした。
梅雨空の中、トーチを手にした会長の近藤宏さん(74)=東京都北区=を先頭に、70代の10人が半袖短パン姿で並び立った。笑顔で手を振りながら進み、60メートルの間に全員でトーチを交代。2分余りで次の走者に手渡すと、万歳をした。
64年9月、兵庫県庁-大阪府庁の約40キロを、兵庫の中高生ら700人近くが走るはずだったが、台風のため中止され、聖火は車両で運ばれた。
半世紀を経て、再び開催が決まった東京五輪。甲陽学院中高(西宮市)のOBを中心に、当時走れなかった有志が2017年に同会を結成し、約170人が集まった。
だが、新型コロナウイルス感染拡大でリレーは延期に。先月25日、3度目の緊急事態宣言が発令され、直前に無観客で短距離のリレーが決まった。森純也さん(74)=大阪府池田市=は「楽しんでいいのか」と自問したが、この日聖火がつく瞬間、心が震えたという。
開催を信じた10人は、それぞれ体を動かし、健康づくりに励んできた。フルマラソンを約20回完走するほど体力があった井上暁さん(73)=神戸市垂水区出身=は昨秋、筋肉が硬直化するパーキンソン症候群と診断された。ただ「自ら断ることはしない」と決め、懸命のリハビリと治療を重ね、妻の助けも借りて完走した。「こんな機会をもらえて、かえってあの時走れなくてラッキーだった」とほほ笑んだ。
近藤さんは「たすきがこれでつながった」、副会長の上塚勝さん(75)=西宮市=も「点線が実線になった」と表現し、控えめに喜び合った。(井川朋宏)