同和地区を撮影した投稿動画の削除を命じた神戸地裁柏原支部の仮処分命令は、差別を助長しかねない投稿が横行するインターネットの在り方に一石を投じる形となった。兵庫県内の自治体もヘイトスピーチや部落差別などの書き込みを防ぐため、ネット掲示板などを監視するモニタリング事業などに取り組んでいるが、「表現の自由」との兼ね合いもあり、被害が軽減されているとはいえないのが実情だ。関西大学の内田龍史教授(社会学)は「閲覧者の理解、知識不足も原因の一つ」と警鐘を鳴らす。
部落解放同盟兵庫県連合会の橋本貴美男書記長は、今回の決定について「画期的」と評価。「丹波篠山市が、積極的に動いてくれたことが大きい」とする。一方で「今でも誤った知識が広まっている」と危ぶむ。
自治体によるネット監視事業は全国的に広がっている。兵庫県内では2010年、尼崎市が先行実施し、20年12月時点で県と24市町が監視に乗り出した。法整備も進み、16年には部落差別解消推進法が成立した。
しかし、部落差別に関するネット上の動画や記事は後を絶たない。法務省によると、同省の人権擁護機関が13~17年に処理したネット上での部落差別などの人権侵犯事件は13年は8件。17年には55件と約7倍となっている。事件全体にネット上のものが占める割合も13年の1割から、17年は5割に増えた。
内田教授によると、ここ数年は、研究や学術目的を装ってネット公開する悪質な事例が増加。人権啓発団体などを名乗り、タイトルには「啓発」「学術」などと記載、地区や個人を識別できる情報を流している。
動画投稿サイト「ユーチューブ」のガイドラインでは、人種や宗教などを理由に、憎悪をあおる動画の投稿を禁じている。ただ教育などを目的とする動画は「許可する場合がある」としており、「規制の抜け道になっている」と内田教授。「差別や偏見はウイルスのようなもので、人から人へ伝わる。それを止めるのが、教育というワクチン。教育や啓発の重要性がまさに問われている」と話す。
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「みなし差別」規制に期待
近畿大学の李嘉永(リカヨン)准教授(国際人権法)の話 今回の仮処分の意義は2点ある。一つ目は、差別助長行為の範囲を動画投稿にも広げた点。被差別部落の所在地を暴くような書籍の出版・販売だけではなく、特定地域を被差別部落とする動画の投稿も、差別助長に当たるとして明確化した。この判断を受け、各サイトの投稿規定や運用が変化し、同様の動画も削除に向かうことが期待される。二つ目は、「みなし差別」の規制につながる判断だという点。同和地区指定を受けていない地域、被差別部落ではない区域も部落として紹介するなど、不正確な情報による「みなし差別」行為の規制は、日本の法では不十分。この仮処分は、それらの規制の足掛かりとなる可能性がある。
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