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父親から体罰を受けた女性(左)。「自分は手を上げないよう子どもに寄り添った」。長男(右)と読み聞かせの思い出を振り返る=神戸市内
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父親から体罰を受けた女性(左)。「自分は手を上げないよう子どもに寄り添った」。長男(右)と読み聞かせの思い出を振り返る=神戸市内
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 子どもへの体罰を禁止した改正児童虐待防止法が2020年4月に施行されて1年余りが過ぎた。「しつけ」と称した暴力や暴言をどうすれば防げるのか。民間団体が中心となり、たたかず、怒鳴らず、子どもの視点に立った「ポジティブな子育て」を推進している。(佐藤健介)

 「ただ怖かった」。神戸市内の40代女性は子どものころ父親から殴られたことを振り返り、表情を曇らせた。仕事で出世欲が強かった父親は、上昇志向を娘に強いた。学校の成績がふるわないと「こんな問題もできないのか!」と怒鳴り、げんこつが飛んできた。「体罰を受けて記憶にあるのは恐怖だけ。それはしつけではない」

 体罰のない子育てを広めようと、非政府組織(NGO)「セーブ・ザ・チルドレン」は2007年、児童臨床心理学者とともに「ポジティブ・ディシプリン(前向きなしつけ)」という養育者向けプログラムを開発した。

 子どもを「学習者」として尊重し、(1)長期的な目標を決める(2)温かさを与え枠組みを示す(3)子どもの感じ方や考え方を理解する(4)課題を解決する-の4原則を通じ、しつけを「前向きに教えること」と捉え直す。

 どんな人になってほしいかを考え((1))、間違っても愛情は変わらないことを伝えて手本を示し((2))、年齢ごとの発達段階を考慮する((3))。この三つを満たせれば、苦手を克服して成長に結び付く((4))という道筋だ。

 同NGOは19年、このプログラムの普及をNPO法人きづくに移管。同法人代表理事の森郁子さんは「親子がそれぞれに合った最善の子育てをするための『考え方』を伝えたい」と話す。

 改正法成立(19年6月)を受け、厚労省の有識者検討会は20年2月、どんな行為が体罰に当たるかの指針をまとめた。体罰を「子どもへ身体の苦痛や不快感を与える行為」と初めて定義。具体例として、注意したが言うことを聞かないので頬をたたく▽いたずらしたので長時間正座させる▽友達を殴ってけがをさせたので同じように殴る▽物を盗んだのでお尻をたたく▽宿題をしなかったので夕飯を与えない-と5例を挙げた。

 同NGOもプログラムの啓発を強化。20年12月、専門家らと協力し、子育てで行き詰まった際のヒントを、五つのテーマで伝えるウェブサイト「おやこのミカタ」を立ち上げた。

 子どもの発達を解説する「こどものミカタ」では、年齢ごとの言動や心理に応じた働き掛けのこつを示し、小児科医や精神科医ら専門家のメッセージも掲載。子どもとの向き合い方をまとめた「あなたのミカタ」では「子どもに望んでいることを親自身が行動で見せる」など10のポイントをイラスト付きで紹介している。

■民法「懲戒権」見直し案も

 非政府組織(NGO)「セーブ・ザ・チルドレン」が2017年に国内の2万人を対して行った意識調査では、約6割が「しつけのための体罰」を容認していた。

 改正児童虐待防止法は体罰を禁じたが、民法には親権者に必要な範囲で子どもを戒めることを認める「懲戒権」がある。しつけ名目の虐待を防ごうと、法制審議会の民法親子法制部会では「懲戒」の文言を削除した改正案が検討されている。

 兵庫県内の児童相談所(児相)に寄せられた19年度の児童虐待相談件数は10年間で3・6倍の8308件に増え、過去最多を更新。新型コロナウイルス感染拡大による生活不安や外出自粛で虐待が増えるのではないかとの見方もある。

 厚労省は虐待やSOSをいち早くキャッチしようと全国共通ダイヤル「189」を設置し、19年12月から通話料を無料化した。全国のボランティアが18歳までの子どもの相談に耳を傾ける「チャイルドライン」は電話(0120・99・7777)のほか、オンラインチャットでも対応している。

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