銀色に光る、トタン製の湯たんぽ。残暑から一転し冷え込みが増す中、昭和レトロな湯たんぽが脚光を浴びている。背景にあるのは新型コロナウイルス禍で広がったキャンプブームだ。灯油価格の高騰に加え、世界的な異常気象の原因となるラニーニャ現象の発生が見込まれ、今冬は西日本を中心に「寒い冬」になるとの予報もあり、エコで経済的な湯たんぽの需要は一層高まりそうだ。(広畑千春)
■老舗に注文殺到
1957(昭和32)年から「萬年」のブランドで湯たんぽを製造するトタン製バケツ大手の尾上製作所(兵庫県姫路市)。4代目の名城嗣明社長(40)は「今年は生産開始を1カ月早めたが、作ったそばから売れていく」と、想像以上の売れ行きに舌を巻く。
湯たんぽは、10年ほど前のエコブームで再注目され、市場規模が数倍以上に跳ね上がった。扱いやすいポリエチレン製の商品が次々登場し、商社も参入したが、ブームの収束とともに撤退し、近年は以前の1・2倍ほどに落ち着いているという。
一方、トタン製湯たんぽは昨年から急激に売り上げを伸ばしている。特にインターネット通販での伸びが著しく、昨年は前年比3倍、今年は現時点で昨年の5倍近くになっており、さらに伸びると予測。名城さんは「ホームセンターでは年配の方が中心だった。このネット需要は間違いなくキャンプ人気」と話す。
トタン製はポリエチレン製に比べ頑丈で熱伝導性に優れているのが利点。同社では8年ほど前から展開するたき火関連商品も好調で、アウトドアメーカーとしての認知度が上がっていることも追い風になっているという。
■低温やけど注意
一般社団法人「日本オートキャンプ協会」(本部・東京)によると、キャンプ人口(推計値)は2019年に860万人と過去最多を記録。昨年はコロナ禍で国内旅行などが半減する中、610万人と前年比で3割減にとどまった。
ビギナー(経験1年)が全体の25・9%と3ポイント上昇し、キャンプ用品の推定市場規模も16・3%増の876億円と、過去最高となった。
芸能人の動画などの影響でシーズンオフの冬にキャンプを楽しむ人も増えるが、湯たんぽによる低温やけどには注意が必要だ。
低温やけどは44~60度で起き、自覚症状のないまま皮膚の深部まで損傷が広がることが多い。名城さんは「同じ部位に接しておかないのが鉄則。キャンプなら就寝前に寝袋に入れて全体を温め、寝る際は足元によけるなど体から離して」とアドバイスしている。
■灯油、電気、ガス…相次ぐ値上げ 冬の家計の「救世主」に?
湯たんぽ人気は、本格的な冬の到来を前に続く灯油の小売価格の高騰も影響しそうだ。アフターコロナの景気回復で世界的に原油需要が高まる一方で、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟国による「OPECプラス」が協調減産の継続を決定。高騰の背景には需給の逼迫(ひっぱく)がある。
経済産業省が発表した25日時点の灯油の全国平均店頭小売価格は、18リットル(一般的なタンク1個分)当たり1910円。前週より50円上がり、8週連続の上昇で、2014年以来7年ぶりの高値となった。兵庫でも1846円で、昨年同期比約400円上がっている。
また、大手電力10社と大手都市ガス4社も、12月の家庭向け電気料金やガス料金の値上げを発表。原油や液化天然ガス(LNG)の価格高騰を受けたもので、4カ月連続の上昇になった。暖房需要が高まる冬場の家計への影響が懸念されている。