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お化け屋敷のように暗く曲がりくねった通路に、江戸川乱歩全集の挿絵が現れる=いずれも神戸市灘区原田通3、横尾忠則現代美術館(撮影・秋山亮太)
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お化け屋敷のように暗く曲がりくねった通路に、江戸川乱歩全集の挿絵が現れる=いずれも神戸市灘区原田通3、横尾忠則現代美術館(撮影・秋山亮太)
ガスマスクなどの古い備品を並べて廃虚のように仕立てた展示会場
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ガスマスクなどの古い備品を並べて廃虚のように仕立てた展示会場
血しぶきが飛び散ったように演出したエレベーター
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血しぶきが飛び散ったように演出したエレベーター
「あの世とこの世」がテーマの展示空間では、ろうそく形の明かりがともる
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「あの世とこの世」がテーマの展示空間では、ろうそく形の明かりがともる

 「キャー」。暗がりに不気味な叫び声が響く。神戸市灘区の横尾忠則現代美術館を「お化け屋敷」のように演出した展覧会「横尾忠則の恐怖の館」(神戸新聞社など主催)が人気を集めている。コロナ禍の中、入場者数は同館歴代3位に達する勢いだ。好調の理由に迫った。(小林伸哉)

 兵庫県西脇市出身の世界的な美術家で、「あの世」や「闇」「死」などのテーマを濃密に描く横尾忠則さん(85)。その世界観を体感できる工夫が満載で、作品約80点を展示して、9月に開幕した。

 「えーっ」。なんで、エレベーターの中が血まみれなん!? 展示空間にたどり着く前から、心拍数が上がる。赤い塗料を大量にぶちまけた演出だった。

 2階の曲がりくねった「乱歩迷宮」は、目が慣れるまで暗くて戸惑う。横尾さんによる江戸川乱歩全集(講談社)の挿絵が、猟奇的な表情で視界に躍り出て、悲鳴や高笑い、うめき声まで響く。

 担当学芸員の山本淳夫さん(55)は「暗い通路を通るうち、全身の感覚が研ぎ澄まされ、より深く作品の世界を感じられるのでは」と指摘。音声は兵庫県立ピッコロ劇団の俳優らに収録を頼んだ。訪れた子どもが泣き、立ちすくむほどの空気感を生んだ。

 ろうそく形の明かりが遺影などを思わせる作品を照らす。明るさが通常の5分の1ほどの所もあり、山本さんは「色が見えるぎりぎりまで、明るさを落とすことで、どきどき感をうまく引き出せている」と語る。

 3階の展示室は廃虚のように設え、すきま風を思わせる音が鳴る。同館の前身、県立近代美術館時代のガスマスクや木箱などの備品が乱雑に並び、「霊骨」や「黒いY字路1」などの絵を引き立てる。

 山本さんは「横尾さんには『あの世』のように、未知のものへのリスペクトや真剣さがあり、創作の大事な部分と『恐怖』は結びつく」と展示の狙いを語る。

 本展の入場者数は8024人(11月28日時点)で、会期全体で約1万7800人に上るペース。2012年の開館からの展覧会28本で3位の多さとなる見通しだ。初めて来館する人が多く、山本さんは「『現代美術は難しそう』という心理的なハードルが下がり、エンタメ的に来やすいのかも。現代美術を好きになるきっかけになればうれしい」。

 両親と3人で訪れた女性(23)=大阪市=は「インスタ映え」する写真はすぐにアップ。「けっこう怖くて…。一人で来なくてよかったな。作品世界により深く入り込めた」と語った。

 甲南大文学部の服部正教授(54)=美術史・芸術学=は「ここ数年、美術館への期待が若者を中心に教育から娯楽に変わり、『楽しむ場所』と話す学生が増えた」と感じる。「娯楽には『名品展』『巨匠』『時代』のようなキーワードより、感覚的な『恐怖』や『驚き』の方が親和性が高い」と人気の理由を分析する。

 同館は館内を病院や温泉施設などに見立てるユニークな展示を重ねてきた。県立美術館の岡本弘毅学芸員(54)は「今回は芸術と見せ物のぎりぎりの境界線を突いた展示で、よくこれだけアイデアが尽きない、と感心する」とたたえる。山本さんは「ネタ切れで…。次は何やろうかなー」と苦悩の日々を送る。

 来年2月27日まで。一般700円ほか。横尾忠則現代美術館TEL078・855・5607

■恐怖やあやしさがテーマ

 「怖いけど、見てみたい」。そんな根源的な欲求をかき立てるのか-。恐怖やあやしさをテーマに据えた展覧会は成功してきた。

 兵庫県立美術館(神戸市中央区)が2017年に開いた「怖い絵展」は、入場者が約27万1700人で同館歴代3位の多さを記録。名画に秘められた歴史の闇に注目した作家中野京子さんのベストセラー「怖い絵」シリーズを基に企画された。

 「ヒットに貢献した」と評されるのが、キャッチコピーだ。ポスターには、処刑前に目を布で覆われた元女王を描いた名画「レディ・ジェーン・グレイの処刑」を配した。「どうして。」と岡本弘毅学芸員は、会心のキャッチコピーを添えて、好奇心をくすぐった。

 大阪歴史博物館(大阪市)で今夏にあった「あやしい絵展」には約4万7800人が訪れた。同館によると、他の展覧会より若い世代の割合が多い印象という。

 共通するのは「怖い」「あやしい」というタイトルの訴求力だ。企画や作品の中身はもちろん、感情を揺さぶる言葉も試されている。(小林伸哉)

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