病気やけがで髪を失った子どもたちのために、医療用ウィッグ(かつら)の材料になる毛髪を寄付する「ヘアドネーション」。提供者の多くは女性だが、このために小1から5年間、髪を伸ばし続けた男子児童がいる。長い髪をからかわれたこともあったが、家族の支えで周囲の理解も進み、目標の31センチ以上をクリアした。1月上旬に髪を切り、「実感はないけどほっとした」とすっきりした表情を見せた。(小尾絵生)
神戸市垂水区の松下翔紀君(11)=市立霞ケ丘小5年。病気で髪を失った子どもをテレビで見たのがきっかけで、その後、ヘアドネーションを知り、「自分にもできることを」と、意識して髪を伸ばし始めた。
もともと散髪が苦手で、最後に切ったのは幼稚園のころ。以降は傷んだ毛先を整える程度で、本格的な散髪は一度もしなかった。
運動の邪魔になるため、普段は一つに束ねているが、日常生活では不便もあった。特に手入れが大変で、父幸衛(こうえい)さん(46)が毎晩入浴後に20~30分ほどかけ、ドライヤーで乾かしてくれた。自身で傷みを防ぐトリートメントやオイルを付け、朝は母忍さん(46)が髪を結んだ。
低学年の頃は、男子トイレを使っていたら「女子がいる」と言われたり、からかわれたりしたことも。そんな日は、泣いて家に帰った。
しかし小3の時、同じ小学校に通っていた兄嘉秀(かしゅう)さん(13)=啓明学院中2年=のおかげで、周囲の理解が大きく進んだ。嘉秀さんは夏休みの読書感想文でヘアドネーションの本を選び、翔紀君の挑戦を紹介。「弟は僕の自慢です」と記した。作文は翔紀君の学年でも紹介され、以降、嫌な思いをすることはなくなった。
「最初は男の子なのに髪を伸ばすのが理解できなかったけど、病気の人のために伸ばす弟はすごいと思うようになった」。嘉秀さんは振り返る。
小4の時には、忍さんも翔紀君に触発され、寄付するためにロングヘアをカット。翔紀君も目標の長さに達していたが、「(髪が短くなって)周囲から過剰に反応されるのが嫌だ」と、切った後も髪を結べる長さになるまで待った。
そして今年1月。家族の立ち会いの下、自宅近くの美容室で散髪を行った。「緊張するから」とクイズの本を手に鏡の前に座った。ゴムで七つに束ねられた髪にまずは翔紀君、続いて嘉秀さん、弟の聡志(そうし)君(9)、忍さんと順にはさみを入れた。
切り終わると、髪は肩に掛からないくらいの長さに。付き添った嘉秀さんは「懐かしい。小さいころの翔紀を思い出す」と顔をほころばせた。翔紀君は「病気で髪が抜けてしまった人に喜んでもらえたらうれしい」と照れくさそうに話した。
切った毛髪は、ヘアドネーションを推進する団体へ寄付する。中学校では校則などで髪を伸ばすのが難しいため、小学校の間だけ伸ばし、15センチから提供できる寄付も考えているという。