ロシアによるウクライナ侵攻で戦闘が続く中、神戸で暮らすウクライナ人女性が、母国の家族を気遣って眠れない日々を送っている。「なぜ、武器を持たない普通の人たちが殺されるのか。本当に悔しい」。涙と怒りで声を震わせる。
ウクライナ西部の都市テルノピリ出身の西牧エヴェリーナさん(40)=神戸市灘区。1999年に来日し、日本人との間に娘(19)がいる。
母レイラさん(65)や兄ヴァセリーさん(43)らが住む故郷の街にも戦火は迫り、爆発音が聞こえるという。日に何度も会員制交流サイト(SNS)で無事を確認する西牧さん。「3、4時間連絡がないと不安でおかしくなりそう」と話す。
加えて心配なのが、心臓に持病がある兄の行動だ。「軍への招集は最後の方だとしても、兄は愛国心が強いから、その前に黙って戦いに参加するのでは」と気をもむ。2014年に治安部隊とデモ隊の衝突で多数の死傷者が出た政変の時もそうだった。兄は家族を心配させまいと、「仕事に行く」と偽って首都キエフでデモ隊に加わり、寒さや栄養不足から肺炎を患った。
西牧さんは今回、兄に思いとどまるように、電話で涙ながらに懇願したが、「犠牲になっている若者たちにも母や家族がいる。なぜ俺だけが行かなくていいのか」と反論された。母も「息子を残して安全なところには行けない」と国外に避難しようとはしない。「自分たちの国を守る」と結束する兄ら市民の姿に、西牧さんは「ウクライナ国民はこれまで以上に一つになった」と感じている。
新型コロナウイルスの影響もあり、故郷の家族と会ったのは14年が最後だ。テレビに映る悲惨な映像に涙しながら、母の匂いを懐かしく思い出す。「母もどんどん年をとる。孫を見せたいし、何よりハグがしたいよ」。一心に無事を祈る。(永見将人)
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