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郷土史や自然…本物に触れ 「旅育」で伸ばす、子どもの生きる力

2022/03/06 15:00

 家族での旅を通じて子どもの生きる力を培う「旅育(たびいく)」という手法が注目されている。ただ単に家族旅行を楽しむのではない。一定の役割を担ったり、自然や歴史、文化といったその土地ならではの本物に触れたりすることで、多様な価値観などを育み、成長を後押しする。新型コロナウイルスの感染対策として1月、近場での旅育を実践した兵庫県内の親子を取材した。(佐藤健介)

 「船を動かすのに、たくさんの人が要るんやなあ」

 「木でできているけど、水が入らへんのがすごい」

 淡路島出身の豪商・高田屋嘉兵衛の資料施設「高田屋顕彰館」(同県洲本市)。初めて訪れた小学生の東龍汰君(10)は弟の虹汰君(8)、柚汰ちゃん(5)と、嘉兵衛らが乗った北前船の模型を見て、江戸時代の操船や造船の技術に驚いた。

 父親で団体職員の佑樹さん(41)=同市=は「好きな分野を伸ばせば、大きなことも成し遂げられる。郷土の偉人に学んでほしい」と目を細める。

 「子どもの視野を広げたい」と、佑樹さんは季節ごとに家族旅行を企画。兄弟は動物との触れ合い、カヌー、電車の運転などを体験してきた。旅先を子ども同士で話し合って決めることも。「育児のためになる旅は淡路島でもできる」。今はコロナ禍のため遠出は控えており、身近な自然や歴史の魅力を知ろうと、同館や兵庫県立公園「あわじ花さじき」(淡路市)へ出掛けた。

 そのかいあってか、龍汰君は水の生き物を図鑑で自主的に調べ、虹汰君は自宅で飼育する魚や昆虫の世話を進んでするようになった。柚汰ちゃんはリバーカヤックや雪そりを自分から「やりたい」と言い出したという。

 「命を大切に思う心、チャレンジする勇気が培われつつある」と佑樹さん。コロナが収束したら、熊本地震から復興に向かう街を訪ねたいといい、「困難な時代に未来を切り開く力が身に付けば」と願う。

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 旅育を2013年に提唱したのが、旅行ジャーナリストで旅育コンサルタントの村田和子さん(52)=同県芦屋市=だ。きっかけは、長男の悠さん(20)が生後4カ月のころから、育児の疲れを癒やそうと始めた家族旅行だという。

 悠さんが9歳になるまでに47都道府県を“踏破”。悠さん自身は、家族とともに、姫路城で歴代城主の家紋に見入ったり、吉野ケ里遺跡(佐賀県)で火起こししたり、足利学校(栃木県)で足利織物づくりに挑戦したりするなど、いろいろな体験を重ねてきた。

 「出会いに目を輝かせ、ものづくりや自然、歴史、方言など、さまざまなことに興味を持った」と村田さん。

 時には旅の行程について判断も委ねた。豪雨で鉄道が止まった際、バスは出ていると悠さんが地元の人から聞き、トラブルを回避したこともあったという。

 悠さんは現在京都大学に進学。村田さんは「遊びの延長で得た知識は学習面でも有効だった」と振り返る。

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■近場にもおすすめスポット

 長引くコロナ禍で旅行が難しいご時世。家族旅行のノウハウを子育てサイトなどで発信するほか、2018年に「旅育BOOK」(日本実業出版社)を出版した村田さんは「コロナ禍でも旅育は子どもの成長を促す取り組みとして重要」と力を込める。

 理由として挙げるのが、修学旅行や遠足といった学校行事が相次ぎ中止となり、新しい世界に触れたり、成長や頑張りを認めたりする機会が少なくなっている、との懸念だ。

 その上で「旅育では『どこへ行くか』よりも『何をするか』が大切。近場でも経験できることは多く、必ずしも感染リスクを冒してまで遠出する必要はない」と指摘。兵庫県内は自然も豊かで、さまざまな職業を体験できる「キッザニア甲子園」(西宮市)や、阪神・淡路大震災を引き起こした野島断層を保存する「北淡震災記念公園」(淡路市)など、適した施設も多い。

 もちろん感染対策の徹底が必須であることは言うまでもない。「『うつさない、うつらない』ため、旅行者自ら何ができるか。親子で一緒に考えた上で出掛けた経験は変化への対応力を磨き、コロナと共存し、立ち向かう勇気を得られるはず」と語る。(佐藤健介)

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