• 印刷
初の著書を出版した石井岳龍監督。真っ白な装丁は「映画のスクリーンをイメージした」という=神戸芸術工科大
拡大
初の著書を出版した石井岳龍監督。真っ白な装丁は「映画のスクリーンをイメージした」という=神戸芸術工科大

 神戸芸術工科大(神戸市西区)の映画コースを発足から16年間けん引してきた石井岳龍監督(65)が、3月で定年を迎える。映画人生の節目に初めての著書を出版し、学生や教員と自主製作した長編劇映画も間もなく完成。「自分革命」をキーワードに、「私が大事だと思うことを伝えていくしかない」と、表現の可能性を次世代と追求し続ける。(田中真治)

 石井監督が教授に招かれたのは2006年。「他の所だったら来ていなかった」と言うのには、それまでの神戸体験がある。

 自作8ミリの上映で訪れた1978年、三宮には「若者にとがった熱気があって、かっこいいなと思いましたね」。神戸アートビレッジセンターとは、96年のオープニングからの付き合いで、阪神・淡路大震災から復興する姿を見つめた。

 2003年にはキヤノンのプロモーションビデオの仕事で、「街のつくりに余裕があるから構図を選びやすく、海から山へ斜面になっているのも撮影に適している」と実感。神戸フィルムオフィスのロケ支援も手厚く、好印象を抱いた。

 映画製作はデジタル化への転換期。機材が発達し、個人で新たな作り方を試みる中、「学生と映画を学び直そう」と飛び込んだ。

 当初は、学生が「黒沢明監督の名前も知らない」ことに面食らったが、創作意欲は不足なかった。10年には神戸に製作会社を設立し、10年ぶりの長編「生きてるものはいないのか」を監督。現場では「関わった人たちがすごく伸びた」と手応えを感じた。

 それからさらに10年余り。昨年末に依頼されたミュージックビデオ(paionia「人の瀬」)では、十数人のスタッフほぼ全員が教え子。「夢みたいで、感慨深かったですね」

     ◇

 大学生活の終盤は思わぬ逆風に見舞われた。「パンク侍、斬られて候」(18年)の公開後、闘病が続き、完治後はコロナ禍が襲った。大学を舞台にした映画「自分革命映画闘争」の撮影は、重要なシーンを残して2年近く延長。キャストやスタッフの学生が卒業し、大幅な見直しを迫られた。

 内省的な時間を過ごすうち、「大事なことをまとめておきたい」との思いから書き上げたのが、416ページに及ぶ「映画創作と自分革命」だ。内容はカメラワークやドラマを描くポイント、演技演出術など教科書的な技術論にとどまらない。

 「危機感がありました。誰でも簡単に見栄えのいい映像が撮れ、配信で簡単に見られる時代に、私たちの心を捉える映画の本質とは何だろうと」

 石井監督が重視するのは「内的対話力」。作り手と受け手が心で会話し、意識を向上させるような働きのことだ。それは、瞬間的な反応を求める動画共有サービスとは異なるという。

 「映画は形になるまで時間がかかる。コミュニケーションの困難に耐えながら共同で創り上げ、見られることで初めて完結する。そこに他者とつながっていくダイナミズムを感じる」

 差異を認め合う対話力やすぐに結論を出さない「耐える力」を映画で養い、社会を分断から共生へ導きたい-。その実践である新作映画のシナリオも収めた。

 神戸芸工大では来年度も教壇に立つ。神戸で撮影予定の企画もいくつか進行中だという。「神戸が映画に愛情のある街なのは、変わらない事実。神戸にいる間に、もっとたくさん撮りたいですね」

 著書はアマゾンと神戸映画資料館(神戸市長田区)で販売。3850円。映画は今夏以降、神戸などで劇場公開を目指している。

もっと見る
 

天気(10月27日)

  • 23℃
  • ---℃
  • 10%

  • 20℃
  • ---℃
  • 50%

  • 23℃
  • ---℃
  • 10%

  • 23℃
  • ---℃
  • 20%

お知らせ