災害ボランティアの広がりに尽力してきた兵庫県立大大学院減災復興政策研究科長の室崎益輝教授(77)と、ひょうごボランタリープラザ(神戸市中央区)の高橋守雄所長(73)が17日、神戸市中央区の市産業振興センターで「兵庫の災害ボランティアの未来」と題して語り合った。2人は3月末で退任するため、現職としての「ラストメッセージ」。オンラインを含めて約90人を前に、災害ボランティアの課題や将来像を伝えた。
同プラザが主催し、神戸新聞社の長沼隆之論説副委員長(54)が司会を務めた。「ボランティア元年」と呼ばれ、市民の災害ボランティアが一般化した1995年の阪神・淡路大震災や、2011年の東日本大震災の経験を踏まえて意見交換した。
ひょうごボランタリープラザの前所長でもある室崎教授は、課題について「(2018年6月の)大阪府北部地震の発生後、西日本豪雨が起こると、大阪からボランティアがいなくなった。ボランティアは5万人程度で固定化され、団塊の世代が主力。被災地がその取り合いをしている」と指摘。「大学生は授業や就職活動、アルバイトで忙しく、世間もボランティアに冷たい。支え合うための『支援文化』を根付かせたい」と訴えた。
高橋所長は「ボランティアの旅費や宿泊費を補助する制度が兵庫県では導入されたが、全国に広げていく必要がある。『支援する人を支援する社会』にならなければ」と力を込めた。
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阪神・淡路大震災の発生以降、災害のたびに、被災地の社会福祉協議会を中心とした受け入れ態勢も整えられてきた。
室崎教授は「上から指示されるものでなく、横につながる世界。みんなで議論して支え合う。ボランティアがどこか『上から目線』の世界になりつつあるが、それは絶対にいけない」と強調。話題は教育にも及び、「現場を見て考える。知識だけでなく心を動かすことが重要。兵庫の防災教育は本当に災害に強い人を育てているか、じっくりと検証していかなければいけない」と話した。
16日深夜には福島県沖を震源とする最大震度6強の地震が起こるなど、近年は災害が多発している。高橋所長は「災害ボランティア助成制度の道半ばで退任するのは残念。阪神・淡路大震災で、県職員として発生直後から対応した経験を今こそ伝えていきたいが、公職を離れると機会が少なくなる。それが悔しい。民間の立場でやっていきたい」と被災地に思いを寄せた。
一方、室崎教授は退任後について「心残りはあまりない。ようやく自由に好きなことができる」とほっとした表情。「今までは被災地に行っても日帰りが多く、東北や熊本をじっくり見られていない。のんびり被災地を訪ね、日本の災害や減災の取り組みが良いのかどうか、現地の人と話しながら見つめ直したい」と述べた。
長沼副委員長は「どうしても被害が大きい方に目がいってしまう。ボランティアによる支援が偏ってしまうという問題は、マスコミ報道にも突き付けられている」と、災害報道の課題を指摘した。
終了後には室崎教授と高橋所長に花束が手渡され、2人が笑顔で写真に納まった。(上田勇紀)
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■宮城・名取市、高橋所長に感謝状
ひょうごボランタリープラザの高橋所長が、宮城県名取市から感謝状を受けた。「兵庫のボランティアの代表としていただいた。継続的な支援や交流を大切にしていきたい」と話す。
東日本大震災の発生直後から、兵庫県内のボランティアと被災地を支援。名取市では仮設住宅などで住民と親交を深め、阪神・淡路大震災が起きた神戸にも被災者を招いてきた。
発生11年の今月11日、退任のあいさつで名取市役所を訪問。「市民に心から寄り添い、心の復興に大きく貢献された」として、山田司郎市長から感謝状を手渡された。(上田勇紀)