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PACコンサートマスターの田野倉雅秋さん=西宮市高松町、県立芸術文化センター(撮影・吉田敦史)
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PACコンサートマスターの田野倉雅秋さん=西宮市高松町、県立芸術文化センター(撮影・吉田敦史)
弓の持ち方に四苦八苦。上が田野倉さんのお手本、下が筆者=西宮市高松町、県立芸術文化センター
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弓の持ち方に四苦八苦。上が田野倉さんのお手本、下が筆者=西宮市高松町、県立芸術文化センター
体験の仕上げに「きらきら星」に挑戦する筆者=西宮市高松町、県立芸術文化センター
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体験の仕上げに「きらきら星」に挑戦する筆者=西宮市高松町、県立芸術文化センター

 コロナ禍でクラシック音楽にはまった。とりわけ大人数が奏でるオーケストラの演奏を聴くと、心に染みた。そうだ。「オケの顔」といわれ、バイオリニストが務めるコンサートマスター(コンマス)に、バイオリンを教えてもらおう。弾いたことはないが、思い切って兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)のコンマスに弟子入りを志願した。(網 麻子)

 「快諾」してくれたのは、田野倉雅秋さん(45)=東京都。4歳からバイオリンを始め、多くのコンクールで優勝・入賞し、現在日本フィルハーモニー交響楽団のコンマスも務める。

    ◇    ◇

 2月下旬、兵庫県立芸術文化センター(西宮市)の大リハーサル室を訪ねた。1時間の体験で何かできるのか?という緊張感いっぱいの私を、田野倉さんはにこやかに迎えてくれた。

 「バイオリンは左手、弓は右手で持つ。弓の持ち方からいきましょう」。弓は弓毛と棹からなり、端の方を持つ。「全部の指を丸める感じで、力はまったく入れないで」と言われるが、形を作るのが難しい。田野倉さんは、手本を示し、手取り足取り教えてくれる。

 ようやくOKをもらい、次は音出し。楽器を左肩に乗せ、4本ある弦を左手で押さえ、音をつくる。

 弦は名前があり、まずA線(2弦)を使う。そのまま右手で弦をはじくと「ラ」の音。左手の人さし指を弦の決まった位置に置いてはじくと「シ」、中指で「ド」、薬指で「レ」、小指で「ミ」の音を鳴らす。小指がうまく動かず、はじく方の右手で無理に運び、笑われてしまう。

 田野倉さんが弓を担当し、私は左手に集中する。人さし指を置くと、きれいな「シ」の音が出た。

 役割を交代し、自分で弓を左右の方向に動かすと、「ギィー」と変な音が。「圧力を弱めに」と言われ、力を抜く。「楽に弾くほどいい音がします」

 骨を介して体中に音色が響き、心地いい。「バイオリンは、木だけでできている。自然のままの音をイメージしましょう」

 両手を使って練習した後、「残り15分で『きらきら星』を」と提案される。ノートに「2211111…」と、使う弦を書いてくれた。持参した楽譜を並べ、私が弓、田野倉さんが左手を担う。「ララミミファファミ…」。4小節だが、弾けた!

 最後は1人で挑戦。左手の指を順番に置き、音を確かめながらゆっくり弾く。少しずれた所を押さえると、違う音が鳴る。「くすり指はもうちょっと高い所に」。修正しながら、何とか奏でられた。達成感でいっぱい。「器用ですね」「飲みこみが速い」と何度も褒められ、うれしくなった。

 締めくくりに、田野倉さんが「タイスの瞑想曲」を演奏する。美しい音色が、心にすっと染み込んでいく。「バイオリンは金管楽器のように、大きな音は出ないけれど、はかなさ、けなげさ、その中に輝きがあって。弾いていると、自分の中が研ぎすまされていく」

    ◇    ◇

 振り返れば、あの楽しさは、田野倉さんのお人柄あってこそと思う。あれから、コンサートに行くと、バイオリン奏者の指や弓の動きに目が行き、紡がれる音が以前と違って聴こえる。音色の世界がぐんと広がった。

【たのくら・まさあき】1976年東京都生まれ。東京芸術大に進み、米・ジュリアード音楽院で学士号取得。大阪フィルハーモニー交響楽団などを経て2020年、PACのコンサートマスターに就任した。3月19、20日に芸術文化センターであるPACの定期演奏会に出演している。

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