新型コロナウイルス禍で、外出機会の減少などに見舞われた高齢者らが、フレイル(虚弱)に陥るリスクが高まっている。体力が低下するだけでなく、認知症やうつ病にもつながりかねず、専門家らは「食事や運動などで回復できる。早めの予防や治療が大切」と指摘する。神戸市内の病院が設置している専門外来にも、多くの相談が寄せられているという。
日本老年医学会などによると、フレイルとは心身の活力が落ち、介護が必要になる一歩手前を指す。75歳以上の350万人が当てはまるとした推計もあり、2020年には当該世代の健診が始まった。
神戸労災病院(神戸市中央区)は20年秋、関西初の専門外来を開設し、今年1月末までに100件を超える利用があった。
井上信孝副院長(61)は、日本では平均寿命が延びた半面、健康上問題なく生活できる「健康寿命」は延びていないとして「フレイルになれば認知症や寝たきりになる恐れが高まる。超高齢化時代が進む中、対策は介護予防にもつながる」と狙いを明かす。
外来ではまず体重の減少や歩行の速度、記憶力の変化などをチェック。数日入院して生活習慣を見直してもらうケースもある。
同病院は看護師や栄養士、理学療法士らのチームでケアする。幅広い観点から課題や予防法を話し合い、患者を支えるといい、井上副院長は「コロナ禍の外出自粛や孤立はフレイルをさらに悪化させる。早めの対策を」と呼び掛ける。
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自治体や企業も予防策に力を入れる。
神戸市は数年前から、自宅でできる体操をテレビやユーチューブで紹介したり、チェック会を開いたりしている。
20年には福祉施設の清掃などに取り組んだ高齢者に換金可能なポイントを付与する「KOBEシニア元気ポイント」制度を始めた。社会参画を促し、運動機能の低下などを防ぐ。
神姫バス(姫路市)は昨秋、日本初の「フレイル予防ツアー」を発売した。専門知識を習得したガイドらから体操などを教わり、自然豊かな環境で栄養に配慮した食事を楽しむ。
キャンセル待ちとなったツアーもあるほどの人気ぶりで、今年5月に開かれる第7弾分まで売り出している。同社は「ツアーで楽しいフレイル予防を身につけて、日常生活に取り入れてほしい」とPRする。(末永陽子)