2月下旬。大阪湾に面した神戸空港島(神戸市中央区)に、海を連想させる青いラインが入った1隻の運搬船が姿を見せた。
運んできたのは、豪州産の液化水素だ。9千キロの航海を経て基地に接岸し、陸上のタンクに移し替えた。「ようやく、ここまで来た」。船や基地の建造を指揮した川崎重工業の山本滋・水素戦略本部副本部長は振り返る。
水や化石燃料などあらゆる資源から生成でき、利用時に二酸化炭素(CO2)を発生しない水素は、脱炭素社会を進める上で「切り札」として注目を集める。
川重など7社の企業連合は、海外から水素を運び、貯蔵して国内に供給するための実証事業を進める。専用船で海上輸送する世界初のプロジェクトで、神戸港は日本側の拠点となった。
液化水素は零下253度。少しでも温度が上がると気化するため、タンクには魔法瓶のような断熱構造を持たせた。基地では、細かな温度や品質の管理が24時間体制で続く。
2030年代初頭の事業化を念頭に「まだ3合目ほどだが、日本がトップランナーなのは間違いない」と企業連合の西村元彦事務局長。「世界中から取引に関する話もあり、ビジネス面でも動き始めている」と自信を見せる。
□
神戸市は17年、神戸港が水素で世界をリードし、新たなブランド価値を生み出す戦略を打ち出した。ポートアイランドでは18年、水素由来の電気と熱を周辺施設に供給する世界初の実証も行われ、脱炭素で先行する欧州の視線も集める。
国も水素の備蓄・供給拠点として神戸港の将来像を描き、民間企業は水素の需要喚起と供給体制構築を図る。神戸港から排出される温室効果ガスを50年に実質ゼロにする計画も始まる。
官民挙げた水素利活用の機運。それは神戸港が阪神・淡路大震災以降に失った、「アジアのハブ港」機能を取り戻す一手でもある。神戸市の担当者は「荷主が何を重視するか。コストやサービスだけでなく、今後は環境に優しい港が選ばれる」と先を見据える。
一方、水素の普及には乗り越えるべき課題も山積している。(横田良平)