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国内外の災害現場の経験から「緊急事態では専門分野を超えた対応が求められる」と話す中山伸一さん=神戸市中央区、兵庫県災害医療センター(撮影・坂井萌香)
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国内外の災害現場の経験から「緊急事態では専門分野を超えた対応が求められる」と話す中山伸一さん=神戸市中央区、兵庫県災害医療センター(撮影・坂井萌香)
東日本大震災で医療搬送拠点となった岩手県のいわて花巻空港でDMAT隊員に指示を出す中山伸一さん(2011年3月12日、中山さん提供)
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東日本大震災で医療搬送拠点となった岩手県のいわて花巻空港でDMAT隊員に指示を出す中山伸一さん(2011年3月12日、中山さん提供)

 阪神・淡路大震災を機に全国の災害現場で指揮を執り、第一線で兵庫の災害医療体制の整備に貢献して、3月末で兵庫県災害医療センター(神戸市中央区)のセンター長を退任した中山伸一さん(67)。自治体設置としては全国初となる同センターの開設当初から運営に携わり、震災の教訓を伝え続けてきた。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)など、私たちが新たな危機に次々と見舞われる中、長年の経験から得たこと、伝えたいことを聞いた。(聞き手・津谷治英)

 -危機対応で最も大切と感じてきたことは。

 「備えだ。阪神・淡路が発生する前、多くの人があんな大規模な地震が起きるとは思っていなかった。医療現場は高度先進医療が主流で、災害についての体制は不十分だった。私が勤務していた神戸大病院は発生初日で通常の10倍以上の112人の医師が集まり、363人の患者に対応した。多くが救急以外の専門医。次々と運び込まれる負傷者にどう対応していいか戸惑う医師もいた。院内も診察器具、カルテが散乱。そんな環境でどんな治療が可能か、何を優先すべきか。瞬時に判断を迫られた。専門分野を超えて、ゼネラル(総合的)の視点で現場に当たる必要があると痛感した」

 「神戸大病院は人材面では恵まれた方だった。発生後しばらくの間、行政や他の医療機関との情報共有がうまくいかなかった。一般の病院では医師、病床が不足。7人で千人を診察したところもあったという。後になって、大阪の救急医がベッドを空けて待っていたが、搬送されなかったと聞いた。府県を越えて情報がスムーズにいきわたっていれば、救えた命があった」

 -阪神・淡路の教訓はその後、どう生きたか。

 「広域災害救急医療情報システム(EMIS)の構築が大きい。空き病床数など必要な情報を病院、警察、消防などの各機関で共有できるようになった。人材養成も進んだ。いち早く被災地へ駆けつける医師、看護師らの災害派遣医療チーム(DMAT)がそうだ。厚生労働省が2005年に発足させ、07年から兵庫県災害医療センターでもスタッフ研修に取り組む。全国で1万5千人ほどの隊員が登録されているが、半数が兵庫から育った。東日本大震災以降は精神医療チーム(DPAT)も組織され、心のケアにも素早く対応できるようになった」

 -災害現場に向かう医療スタッフに求めることは。

 「心構えだろう。災害現場に直面した医師は、聴診器1本で診察する覚悟がいる。ライフラインが被害を受けると電源も断たれ、磁気共鳴画像装置(MRI)などの先端機器が使えなくなるからだ。新たな疾患に対応するためにデジタル化は進めるべきだが、災害現場では基本が大切になる」

 -最後は人の力だと。

 「コロナ禍では入院できない患者が出て医療現場の逼迫(ひっぱく)が指摘された。だがベッドだけ増やしても、治療する人材がいなければ無駄になり、マンパワー(人員)の確保という課題が浮き彫りになった。危機に備えて、スタッフの数は余裕を持った方がいいと思う。医療者の長時間労働も是正される」

 -新型コロナは他にも多くの課題を突きつけた。

 「兵庫県は災害と認識してきたが、改めて医療の強靱(きょうじん)化の必要性を痛感している。阪神・淡路以降も、津波、原発とさまざまな危機を経験してきた。社会の繁栄、それに基づく安全、安心は『砂上の楼閣』だったことを学んだ。地球温暖化の影響で未知の危機はこれからも想定される」

 「病院の耐震化などハード面に加え、体制の強化には多額の費用がかかる。政治のイニシアチブも必要になるだろう。健康に暮らすのが当たり前の生活は、いざという時の備えがあってこそ。いま一度、その重要性を訴えたい」

【なかやま・しんいち】1955年、宮崎県生まれ。神戸で育ち、神戸大医学部、同大大学院医学研究科を修了。神戸大病院救急部で阪神・淡路大震災に遭遇する。以降、国内外の災害現場に赴いた。新潟県中越地震、東日本大震災ではDMATとして出動。2003年、兵庫県災害医療センター開設に伴い副センター長に就任。12年から同センター長。今春退任し、同センター顧問に就いた。

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