世界初の液化水素運搬船を使った水素供給網構築の実証事業成功を記念した式典が9日、神戸市中央区、神戸空港島の神戸液化水素荷役実証ターミナルで開かれた。岸田文雄首相や参加企業の社長ら約50人が出席し、くす玉を割って祝った。
実証事業は川崎重工業(神戸市中央区)や岩谷産業など7社でつくる技術研究組合「HySTRA(ハイストラ)」が、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けて実施。昨年12月、川重が建造した液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」が神戸を出港し、豪州で採れる低品質石炭「褐炭」から製造、液化した水素を積み込んだ。今年2月下旬に同ターミナルに帰港し、同月末、日本最大の貯蔵タンクに充てんを完了した。
式典で岸田首相は、ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー供給の在り方が問われているとし「安全保障と安定供給を両立し、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)を実現する鍵が水素、アンモニアだ。一刻も早い商用化が求められる中、この成功はわが国、世界のカーボンニュートラルの歩みを力強く後押しする」と述べた。
続いて、HySTRA理事長の原田英一・川重常務執行役員が実証事業の完遂を報告した後、NEDOの石塚博昭理事長(兵庫県明石市出身)や組合員企業の社長らがあいさつ。川重の橋本康彦社長は「液化水素を海上輸送できたことは誠に感慨深く、カーボンニュートラル社会への大きな一歩を踏み出せた」と手応えを語り、2030年に水素の大規模供給を目指す決意を示した。
最後に、斎藤元彦兵庫県知事や久元喜造神戸市長らも加わりくす玉を割った。
実証事業は本年度末まで続き、豪州との間をさらに複数回往復し、搭載する液化水素の量を変えて技術的なデータを取得する計画。商用化に向けては水素の調達コストを下げる必要があり、川重子会社などが今後、液化水素運搬船や貯蔵タンクなどを大型化する別の実証事業を本格化させる。(大島光貴)