全国の市町村議会でタブレット端末の導入など情報通信技術（ＩＣＴ）の活用が進んでいる。兵庫県但馬地域の５市町でも３市がタブレット端末を導入し、議案をデータで配布する。国会では委員会での試行が始まっているが、本格的な導入はまだ見通せない段階で、地方議会からＩＣＴ化が進む。但馬で最初に導入した朝来市を中心に現状をまとめた。（小日向務）

■経費削減、災害時も有用

　開会中の同市議会では、議員全員の机にタブレット端末が並ぶ。画面に映る議案や質問を見ながら、ノートにメモを取ったり、画面に直接メモを書き込んだりする姿もある。一般質問などの際に写真や表などを添えれば、それぞれのタブレットに表示され、ケーブルテレビの放送でも映し出される。

　タブレットでは同市の提出議案や関連資料が配布年度や議会ごとなどで整理され、市の各種計画なども閲覧できる。各資料は議会事務局が共有システムで管理し、追加なども容易にできる。議員のタブレットには通信でデータが送られインターネットなどで関連情報の検索もできる。

　同市議会で最年長の森下恒夫議員（７４）＝３期目＝は「検索などが便利になったし、持ち歩く資料が少なくなった」と歓迎。ただ「重要な案件はしっかり理解するため、印刷して読み込んでいる」とする。プリンターは議場近くの部屋に設置されている。

　文教民生委員会委員長の足立義美議員（７２）＝２期目＝は検索の便利さなどに加え、「委員会での視察先の調整が数日でできた」とメールでの連絡の取りやすさを強調する。

　総務省は２０２０年、条例や議会規則の改正など必要な措置を講じ、参集が難しい場合、「オンライン出席」による委員会の開催ができる－との通知を出している。但馬での例はまだないが、今年１月１日時点で、全国１３５の地方自治体が条例改正などの対応をしている。西本英輔議長（４３）＝３期目＝は「新型コロナウイルスのまん延などを含む災害時に必要になると考えており、準備を進めている」と説明する。

　同市議会では、１９年９月定例会からタブレットの利用を始め、１年後には議員への議案などの配布をデータのみとした。利便性の向上や情報伝達の一元化などに加え、ペーパーレス化による経費削減などを狙った。導入当初、経費削減効果は年額３３０万円を見込んだ。

　同市議会に続いて、豊岡市議会も２０年７月にタブレットを導入し、２１年春から議案もデータのみに。養父市議会は昨年１２月からタブレットの利用を開始し、本年度の６月定例会からデータのみで議案などを配布している。

　全国市議会議長会によると、２０年末時点で、全国８１５市区議会の３７・２％がタブレットを導入しており、急速に拡大しているという。ちなみに兵庫県議会は２１年７月から議案などをデータで配布。国会では衆院が２０年、委員会でタブレットの使用を解禁したが、通信は禁止。参院は本年度から、通信機能を含め、機器の使用を認めている。

■傍聴者の利便性も充実へ　ネットなどで議論公開

　但馬の５市町議会は、以前からケーブルテレビでの放送やインターネットでの配信などを続け、本会議や委員会の「傍聴」を呼びかけている。情報通信技術（ＩＣＴ）を使ってさらに充実させる動きもある。

　議会によって生放送の有無や放送の内容などは異なるが、全５市町議会が放送や配信を手掛ける。全国でも多くの市区町村議会が、議案や一般質問の内容をインターネットのホームページで公開している。

　議員や市町当局のＩＣＴ利用は進む一方で、議場にある傍聴席での通信機器の利用は但馬５市町議会とも禁止しており、ＩＣＴの恩恵は少ない。

　朝来市議会の西本英輔議長は「議場の傍聴者にも、議論をより理解してもらえるよう、多くの情報を提供したい。タブレットを貸与できないか研究している」と、通信機器の活用を視野に入れる。