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「いつか会える」アフガニスタンから退避の男性 信じる残した妻子との再会 タリバン実権掌握1年

2022/08/15 19:30

 イスラム主義組織タリバンがアフガニスタンで実権を掌握して15日で1年。迫害から逃れるため同国から避難し、兵庫県内で暮らす男性(34)がいる。専門のIT(情報技術)を生かして日本で生計を立てていこうとしているが、気がかりなのは、タリバンの圧政が強まる母国に残した妻子。「さみしい。でも、いつか会える」と自らに言い聞かせ日本語習得にも励むが、ロシアによるウクライナ侵攻以降、国際社会の注目が母国から薄れていることにも不安を覚える。(上田勇紀)

 8月上旬。男性の住むアパートを訪ねると、エアコンのスイッチは切れていた。覚えたばかりの日本語で「日本は僕の国より暑いです。でもエアコンの風は体に合わなくて」と話した。

 母国では政府の要職に就き、大学院の助教授もしていた。だが武装したタリバンが首都カブールを制圧した昨年8月15日以降、暮らしは一変した。同9月にはタリバンが暫定政権を樹立。政府に関係した男性は弾圧を受ける恐れがあり、同10月に日本政府の退避支援により、留学経験のある兵庫に逃れてきた。家族を一緒に連れてくることは許されなかったという。

 保証人となってくれた建設会社の経営者の支援で、県内に住まいを確保。時間はかかったが、ITの専門知識を生かして就労できる在留資格も取得できた。かつて日本に留学していた際はITの勉強に専念していたため、本格的に日本語を学ぶのは初めて。働きながら、毎晩のようにボランティアによるオンライン講習を受け、漢字の習得にも力を注ぐ。「日本の生活に少しずつ慣れてきた」と笑顔を見せる。

 しかし、6千キロ離れた母国で、タリバンにおびえながら暮らす妻と4歳の息子が脳裏を離れることはない。妻は以前は大学で学んでいたが、暫定政権下ではかなわない。女性の教育や行動、服装は大きく制限された。「タリバンは自分たちの信じていることを強いる。ただのテロリストだ」

 言論の自由も奪われた。多くのメディアが閉鎖され、タリバンを批判すると命の危険にさらされるという。「殺された人を何人も知っている。私も、私の家族も危ない。毎日が戦争だ」と語気を強めた。

 外務省によると昨年9月以降、日本政府の支援で日本に退避したアフガニスタン人は約800人に上る。今年3月からは新型コロナウイルスのオミクロン株に対応した水際対策が緩和され、通常の手続きを経て入国する人が増えたという。

 男性は妻子を日本に呼び寄せたいが、見通しが立たない。タリバンが実権掌握後、行政サービスが停滞し、息子がパスポートをいつ取れるかも分からない。

 今年2月のロシアによるウクライナ侵攻後、国際社会の関心が東欧に移ったことも先行きの不安を大きくさせている。日本の政府や自治体、企業がウクライナからの避難民に相次いで支援を打ち出す中で、「どの国かにかかわらず、平等に扱ってほしい」と訴える。

【タリバン暫定政権】アフガニスタンの首都カブールを昨年8月に制圧したイスラム主義組織タリバンが同9月に樹立した。タリバンの旧政権は、2001年の米中枢同時テロを首謀した国際テロ組織アルカイダ指導者ビンラディン容疑者の引き渡しを拒み、米英軍の攻撃で崩壊。民主政権が発足し欧米が財政面を支えたが、タリバンが勢力を盛り返し約20年ぶりに復権した。女性抑圧への批判も強く、国際承認を得られていない。

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