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<成人未満・第2部 消えない「なぜ」>(3)少年Aに照準「警察は陰で粛々と」 神戸連続児童殺傷事件

2022/08/20 18:00

 神戸連続児童殺傷事件で、逮捕された「少年A」は14歳だった。当時は起訴できない年齢だ。では、なぜ起訴を担う神戸地検は深く携わったのか。理由の一つには、日本の治安を揺るがす凶悪事件で、当初は「犯人」が大人とみられていたことがある。元主任検事の男性(69)=現在は弁護士=が当時を振り返る。

 容疑者は、当然成人だと思っていました。また連続通り魔と淳君事件は同一犯の可能性が高いとも感じていました。両事件が極めて狭いエリアで起きていて、被害者が皆、児童だった。同じ地域に、同じような事件を起こす人間が2人いるとは思えなかった。

潜伏捜査

 両事件の捜査本部は一見、壁に突き当たったかのように見えた。

 だが、実際は違った。数百人態勢で臨んだ兵庫県警で、一握りの捜査員だけが極秘任務を帯びて動いていた。それを主任検事が知るのは、逮捕直前の話だ。

 当時、県警の刑事部長は警察庁キャリアだった深草雅利さん(69)。深草さんに、いわば「特命部隊」による潜伏捜査を聞いた。

 「実はね、私も最初、Aの話は知らされていなかったんです」。深草さんは25年前を昨日のことのように覚えている。神戸新聞社に、赤い文字で書かれた「犯行声明」が届いた直後だった。「犯行声明に、警察の動きを見ているかのような文章があった。それで、捜査本部で誰か(容疑者と)接触していないかと尋ねると、『ちょっとお話が』と。人目のない場所に移って、初めてAの報告を受けました」

 報告の内容はこうだ。小学6年の土師淳君=当時(11)=の遺体が見つかった1997年5月27日のわずか数日後。現場近くで捜査員が一人の中学生に職務質問をした。遺棄現場に残された挑戦状の文言をすらすらと暗唱してみせた中学生は、淳君を知っているかと問われ、「知らない」と答えた。実際は、弟が淳君の同級生だった。

別の拠点

 この中学生が「少年A」だった。この時点で捜査本部の幹部は、Aに照準を定めた。だが、14歳。捜査は保秘の徹底が求められた。刑事部長にさえ、Aの存在は伏せられていた。

 深草さんは振り返る。「情報を共有する幹部は私以下5人に絞り、通り魔事件を担当する班だけに調べさせました。捜査本部で話すと情報が漏れるので、近くにあった捜査員の親類宅に拠点をひそかに移しました。すると、署で張り込む新聞記者が『出入りする捜査員が減った。態勢を縮小したのか』って聞いてきてね。毎日必ず捜査本部にも顔を出すよう指示しました」

 特命の任務を受けた捜査員の調べで、連続通り魔事件と淳君事件が徐々につながっていった。一方、地検の主任検事はそれを知らず、自ら現場を巡って書面を作っていた。元主任検事は今、苦笑いで語る。

 地検の全検事に、過去の捜査などでヒントになる情報があれば上げるよう依頼して、逐一県警に提供していたんです。でも、県警は僕に言わず、陰で粛々と捜査を進めていた。完全に踊らされていたわけです。

(霍見真一郎)

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成人未満成人未満 第2部 検事が見た「少年A」

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