総合

休眠会社を清掃会社に、決算書も偽造 みなと銀の元行員、融資金詐欺「伊丹支店ならハンコが軽い」

2022/08/20 20:10

 ペーパー会社に対する融資金として、当時勤めていたみなと銀行(神戸市中央区)から計約1億5千万円をだまし取ったとして、同行の元行員らが起訴された事件で、元行員が銀行マンの立場や知識を悪用し、審査を通過させた手口が警察や公判の取材で明らかになった。一方で銀行側は、偽造とみられる決算報告書や、社長として登記された人物らとの面談に頼って融資を実行したとみられ、専門家は審査の甘さも指摘する。

 詐欺罪で起訴された元行員は、2013年に入行し、事件当時は銀行本部で勤務していた32歳の被告=公判中。

 起訴状などによると、元行員は幼なじみやその知人ら3人と共謀して2020年5月~21年9月、清掃会社や衛生用品販売会社に対する融資の名目で、同行の伊丹支店から約1億2千万円を、尼崎統括部から約3500万円を詐取したとされる。

 神戸地裁での元行員らの公判で、検察側は冒頭陳述などでグループの巧妙な手口を指摘した。

 元行員は勤務する銀行から融資を引き出そうと、まず、長期にわたって営業していない「休眠会社」を知人から得た。社名を変更して清掃会社とし、幼なじみの元同僚という雇った男を社長に据えた。さらに好調な経営状態に見せかけた決算報告書を自ら作成。その上で、伊丹支店で融資を担当する後輩の男性行員に「1社、紹介を受けました」とメールを送ったという。

 紹介されたのは、法人登記があるだけで営業実態がない会社だったが、銀行本部の先輩である元行員から直接の連絡を受けたこの行員は社長らと面談。偽造された書類を見せられた際には「きれいな決算ですね」と称賛すらしたという。

 後の捜査で、この行員が自ら追加融資を提案したことや、清掃会社側から接待を受けていたことも判明。元行員は「伊丹支店なら決裁のはんこが軽い」などと周囲に話していたという。元行員は今月17日、自身の詐欺罪の初公判で、起訴内容の認否を一部留保した。(井沢泰斗)

■専門家、審査の甘さ指摘「業務の実態確認すべき」

 事件の構図や内容に照らすと、融資の審査はどうあるべきだったか。銀行経営に詳しい東洋大学の野崎浩成教授(金融論)は「過度に決算書を信じず、実際の業務や取引状況を目で確認すべきだった」と強調する。

 野崎教授は「例えば地銀のメリットを生かし、周辺の顧客から情報収集をする手段もあった」と指摘する一方、「近年はどの銀行も人手不足。実際には徹底した調査が難しいのだろう」と推測した。さらに「銀行の支店は本部の情報を頭から信じる傾向がある」と業界特有の体質も示唆した。

 また、近年は新型コロナウイルスの影響で経営が悪化し、今回の事件のように乗っ取られた会社がある。反社会的勢力が特殊詐欺事件で得た犯罪収益を、このようなペーパー会社の売り上げに計上し、資金洗浄(マネーロンダリング)をする手口もみられるという。

 実際、みなと銀行の事件で使われた会社の登記は、もとは約20年前に設立された休眠会社だった。金融業務に詳しい関係者は「怪しい企業を見つけるには過去の登記情報をしっかりさかのぼること。役員が全て入れ替わるなど、不審な点が見つかるはず」と話す。

続きを見る

あわせて読みたい

総合

もっと見る 総合 一覧へ

特集