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第7波、窮地に陥った小児医療 「最後のとりで」院長ら、コロナ禍で抱く危機感「子どもがすべて後回し」

2022/08/21 06:30

 新型コロナウイルスの流行「第7波」の拡大で、小児医療が窮地に陥っている。小児科クリニックの発熱外来は患者らが殺到して受診が困難になり、症状が重い患者の入院も綱渡りの状態だ。子どもが感染しても重症化しにくいとされる中、なぜ危機的な状況になったのだろうか。兵庫県内の小児医療の「最後のとりで」を担う県立こども病院の飯島一誠(かづもと)院長は、その背景に「小児医療の貧困がある」と指摘する。飯島院長と笠井正志・感染症内科部長に問題点や現状を聞いた。(田中伸明)

 -なぜ危機的なのか。

 笠井部長「子どものコロナ患者は第6波で急増し、第7波でさらに増え方の角度が急になった。風邪と同じでほとんどの患者は軽症で済むが、数が増えると重症化する子どもが出てくる。第6波では全国で重症者や死者が相次いだが、第7波では入院先の確保がますます困難になっている」「当院にはコロナ患者用の病床が11あるが、ほぼ満床で自転車操業が続いている。今後、さらに重症者が増える恐れもあり、危機感は強い」

 -なぜ入院施設が不足するのか。

 笠井部長「感染が拡大すると、小児用の病床が高齢者らに回されることが多い。第6波では、子どもの患者が急増したのに入院できる施設は減ってしまった。夏はRSウイルス感染症などもはやる時季。通常でも入院患者は多いので心配だ」

 飯島院長「多くの病院では子どもが入院する際、保護者の付き添いが条件になる。だから、子どもだけでも入院できる当院への『社会的入院』が増えてしまう。はっきり言って、子どもは今の日本の医療では大事にされていない。子どもは後回しという本質的な問題が、コロナ禍であぶり出された」

 -命を失う事態もあり得るのか。

 飯島院長「子どものコロナ患者用の集中治療室(ICU)は、当院の2床を含め、兵庫県全体で4床しかない。これが埋まってしまうと、重篤な子どもを人工心肺装置エクモ(ECMO)などを使って救うことが難しくなる」

 笠井部長「子どもに対して、エクモによる治療ができる施設は、西日本全体を見渡してもほとんどない。当院は西日本全体の命綱ともいえる。逼迫(ひっぱく)は何としても避けたい」

 -他の診療科への影響は。

 飯島院長「当院ではすでに手術などの制限を始めている。夏休みに合わせて1年前から実施を決めていた手術を延期するのは心苦しいが、院内感染でマンパワーが不足していることもあり、コロナの重症患者に備えざるを得ない」

 笠井部長「救急はぎりぎり頑張っているが、受け入れが難しい状況も生じている。特に休日が厳しい。当院には重い外傷を負った患者さんも来るが、他の医療機関で診られるところは県内でもほとんどない。何とか受け入れ体制を維持したい」

 -小児科クリニックの発熱外来もパンク寸前だ。

 笠井部長「熱が出たからといって全員が受診していては、小児科は持たない。発熱しても『食う寝る遊ぶ』ができ、水分をきちんと取れていれば、慌てて受診する必要はない。ここ2年ほどインフルエンザの流行がなかったので『ホームケア』の力が落ちているのかもしれない。受診の必要性を保護者が判断できる力を取り戻してほしい」

 飯島院長「日本小児科学会は、5~17歳へのワクチン接種を『意義がある』という表現から『推奨する』に変更した。不安のある方は、メリットとデメリットを把握した上で接種を検討してほしい」

 -日本の小児医療は貧困なのか。

 飯島院長「子どもは大事な宝だ。それなのに、小児医療は財政でも人の手当ての面でも『後回し』にされ、必要な薬剤の承認も遅れている。コロナはすぐになくなるとは思わない。より強力なウイルスに備えて、国や自治体は本気で子どもを大事にする施策を展開してほしい」

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