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卵からかえったばかりのセイタカシギのひな4羽(三木敏史さん提供)
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卵からかえったばかりのセイタカシギのひな4羽(三木敏史さん提供)
セイタカシギの繁殖を見守り続けた(右から)井田守さん、三木敏史さん、三宅純さん=姫路市網干区大江島
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セイタカシギの繁殖を見守り続けた(右から)井田守さん、三木敏史さん、三宅純さん=姫路市網干区大江島
(左~時計回り)■なんもせえへんで」。ひなをかばって注意を引く親鳥に、三宅純さんは優しく声をかけた■縄張り争いで、じっと向かい合うセイタカシギのつがい■大雨で畑の水かさが上がり、水没するセイタカシギの巣■土を盛ってかさ上げされた巣で羽を休ませるセイタカシギ(いずれも三木敏史さん提供)
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(左~時計回り)■なんもせえへんで」。ひなをかばって注意を引く親鳥に、三宅純さんは優しく声をかけた■縄張り争いで、じっと向かい合うセイタカシギのつがい■大雨で畑の水かさが上がり、水没するセイタカシギの巣■土を盛ってかさ上げされた巣で羽を休ませるセイタカシギ(いずれも三木敏史さん提供)
論文集を手にする三木敏史さん
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論文集を手にする三木敏史さん

 2020年春、兵庫県姫路市網干区のレンコン畑で、優美なたたずまいから「水辺の貴婦人」と称されるセイタカシギの繁殖が確認された。兵庫県内では初めての詳細な繁殖記録という。それから2年、つがいは毎年春に畑で卵を産んでいるが、その裏側には温かく見守り続ける地域住民らのサポートがあった。3年間、愛を育む様子を毎日のように観察してきた同県太子町の三木敏史さん(80)の記録を基に、これまでを振り返ってみたい。(森下陽介)

 繁殖場所となっているのは、秋祭りの「提灯(ちょうちん)練り」で知られる魚吹八幡神社にほど近いレンコン畑が点在する地域だ。20年4月末、農家の井田守さん(73)が、この畑でセイタカシギ4羽を確認。知人で愛鳥家の三木さんへ連絡した。飛来自体は毎年のことで、畑の虫を食べてエネルギーを蓄えると長くても数日で飛び立っていたという。ただ、井田さんは「例年と様子が違う」と感じていた。

 予感は当たった。5月中旬になると、このうち1組が畑のあぜ道で産卵。さらに約3週間後には4羽の愛らしいひながかえった。三木さんは、7月末に周囲の畑の水が抜かれて一家が飛び立つまで、毎日朝晩2回の観察を欠かさなかった。同じく観察を続けていたヤマサ蒲鉾(かまぼこ)の名田稔会長(82)とともに、つがいがやって来てからの93日間を1冊の写真集にまとめて発行した。

 「1年きりの奇跡」。三木さんたちはそう考えていたが、翌年、同じつがいがやってきた。一帯の畑は害鳥よけの網が張られていたため、2羽はうろうろと営巣場所を探し始めた。しばらくして、市道を挟んだ場所にあるレンコン農家の三宅純さん(55)の畑を巣づくりの場所に定めた。

 卵を三つ産んだが、巣が大雨で水没。それでも2羽は諦めることなく、昨年と同じ井田さんの畑に引っ越した。そこでも四つの卵を産んだが、今度は野生動物の被害に遭い、この年はふ化することはなかった。

 「無事にひながかえってほしい」と農家2人のサポートにも力が入る。井田さんは、つがいが害鳥よけの網を張った畑で営巣するとすぐに、出入りしやすいように網を取り払った。三宅さんは、21年の大雨で巣が水没してしまったことから、巣が作られたあぜ道に土を盛ってかさ上げ。また、セイタカシギが安心して巣作りできるように、巣の周囲にはレンコンを植えなかった。

 効果は早速表れた。22年3月、例年より1カ月ほど早く同じペアが三宅さんの畑に飛来。4羽のひなが無事にかえった。さらに別のペアが巣作りを行うサプライズもあった。カラスの被害に遭い、ふ化こそしなかったものの、レンコン畑が繁殖場所として広がりを見せ始めた。

 「農作業をしていると、セイタカシギがすぐ目の前にまでよってくる。貴婦人らしくポーズを決めて、私らに『このポーズはどう?』と尋ねているよう。そりゃあ、愛着も湧くよ」と井田さんと三宅さん。2人は早くも来春の飛来を心待ちにしている。

     ◇     ◇

■三木さん 専門家うならせた観察記録論文に

 三木敏史さんの詳細な記録は専門家もうならせた。レンコン畑でセイタカシギのつがいを観察し続け、1本の論文にまとめたところ、「日本野鳥の会」が発行している論文集「ストリクス」に掲載された。三木さんは「まさかこんな大ごとになるとは」と驚きつつも喜んでいる。

 論文は2020年の記録を基にした。レンコン畑での繁殖状況にはじまり、周囲に対する親鳥の警戒行動や、セイタカシギの餌場を確保する上での課題についてまとめている。

 レンコンの葉の成長に伴いセイタカシギが採餌しにくくなり、餌を求めて頻繁に移動を繰り返した点に着目。ビオトープなどを整えることで、事故や捕食される被害を減らすことにつながる-と指摘している。

 三木さんは「かつてほど珍しい鳥ではなくなったが、それには周囲の人間のサポートがあってこそ。これからもそっと見守りたい」と話していた。

【セイタカシギ】全長35~40センチほどで、ピンク色の長い脚と鋭くとがった黒いくちばしが特徴。生息地は、ユーラシア大陸やオーストラリアなど広く分布し、日本では旅鳥として水田や湿地に飛来する。兵庫県のほか、東京や千葉、大阪などでも繁殖が確認されている。環境省レッドリストでは絶滅危惧2類に分類されている。

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