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「因幡・但馬麒麟のまち連携中枢都市圏」の名称に由来する伝統芸能の麒麟獅子舞=兵庫県新温泉町芦屋
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「因幡・但馬麒麟のまち連携中枢都市圏」の名称に由来する伝統芸能の麒麟獅子舞=兵庫県新温泉町芦屋
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 シカの体に馬のひづめ、竜の頭を持つ動物とは-。答えは「麒麟(きりん)」だ。中国伝来の架空の生き物にまつわる伝統芸能「麒麟獅子舞」が、兵庫県の新温泉、香美両町に古くから伝わり、隣接する鳥取県側にも同様の文化が根付く。周辺の自治体は「麒麟のまち」の愛称で連携し、さまざまな公共サービスや観光振興などを手がけてきた。県境をまたいだ地域活性化の取り組みは来年で5年。節目を前に、これまでの動きを振り返った。(末吉佳希)

 「かかりつけの病院は鳥取だし、買い物もそう。鳥取は生活の要やね」。新温泉町に住む70代女性の言葉は、同県と接するまちの住民感情を代弁する。

 新温泉町から、同じ但馬地域にある豊岡市へは車で約50分。鳥取市へは約40分で済む。JR鳥取駅前には百貨店やショッピングセンターがあり、東京・羽田便が飛ぶ鳥取砂丘コナン空港にも近い。

 伝統芸能だけでなく、生活圏も共通することから、新温泉町や鳥取市などの6市町は2018年、「因幡・但馬麒麟のまち連携中枢都市圏」を創設した。連携中枢都市圏とは、自治体の広域連携で地域活性化を図る政策の枠組みだ。中核市と近隣の市町村が協力し、経済成長▽高次都市機能の集積・強化▽生活関連機能サービスの向上-などに取り組む場合、2億~3億円規模の財政支援が受けられる。

 自律的な活力づくりを促して、東京や大阪などへの人口流出を防ぐ狙い。国が制度化した14年度以降、全国で37圏域が発足、構成自治体は360を超える。「因幡・但馬麒麟のまち」は、県境をまたいで圏域を形成する珍しい例という。20年には香美町が合流した。

 これまで麒麟のまち圏域は、90を超える施策を展開してきた。麒麟獅子舞の日本遺産の認定を支援し、圏域各地の特産品をそろえた情報発信拠点を大阪・中之島に構えた。鳥取市立病院と公立浜坂病院(新温泉町)などが相互連携し、医師の派遣体制も強化した。

 「直近の成果は、新型コロナウイルスワクチンの共同接種」と話すのは、同圏域の事務局を担う鳥取市政策企画課の戸田昭弘課長。昨年6月に始めた接種サービスでは、圏域内の住民は域内の自治体であれば、住民票を置かない市町の医療機関でも受けられるようにした。

 全国でも例のない取り組みで、平日に接種しにくい現役世代が通勤や通学の合間にワクチンを打ったという。戸田課長は「感染者数が少なく、医療サービスに余裕のある自治体が多忙な市町を助ける『互助』の面が強く、圏域が理想とするケース」と自負する。

 ただ、コロナ禍の障壁も多い。観光客の減少による地域経済の打撃は大きく、公共サービスの手法を伝え合う合同職員研修会もここ数年、途絶えたままだ。コロナ流行「第7波」で先行き不透明な中、同圏域は次の5年間を見据えた指針の策定を進める。戸田課長は「『ウィズコロナ』の視点で観光振興や福祉の充実、人口維持などに取り組み、圏域内の活力を底上げしていきたい」と力を込める。

 江戸時代初期に起源を持つ麒麟獅子舞。疫病や凶作、飢えに苦しむ領民が救済を求めた言い伝えから「幸せを呼ぶ霊獣」とも呼ばれる。地方創生、経済成長、アフターコロナ…。豊かな暮らしを支えるべく、伝承に由来する圏域の次の一手に期待がかかる。

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