10月1日から育児・介護休業法が改正され、新たに「産後パパ育休」の制度がスタートした。妻の出産後すぐに夫が育児休業を取りやすくなる制度で、子どもを望む男性らは「成長を見守れる」と期待するが、育休に縁がなかった男性上司を前に「取れる雰囲気はない」とする企業の人事担当者も。改正をきっかけに男性の育児参加は広がるか。
産後パパ育休は、子どもの出生後8週間以内に父親が最長4週間の休みを取れる。2回に分けられ、途中で一度復帰できるため、取得しやすくなる。その後、従来の育休(原則1歳まで)も2回に分けて取得できる。
だが、県内にある建設会社の人事担当者(40代男性)は「社内では男性社員の育休は事例がなく、イメージが湧きにくい」と困惑する。「『男は黙って働け』という時代を生きてきた上司が多く、人手も不足している。社員は取りにくいと感じるのでは」と顔をしかめた。
2021年度の男性の育休取得率は13・97%と9年連続で上昇し、過去最高。だが、政府は25年までに30%を目指しており、目標値にはほど遠い。理由の一つに、男性の育休などを理由にした嫌がらせ「パタニティーハラスメント(パタハラ)」がある。
20年の厚生労働省調査では、過去5年間で、勤務先の育児に関する制度を利用しようとした男性の4人に1人が被害に遭っていた。兵庫労働局によると、「男なのに育休を取るなんてあり得ない」「自分なら取得しない」と反対された例や、育休取得後に突然異動させられた例があるという。
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男性の育休取得が進まない中、建設機械の専門商社トモエシステム(神戸市兵庫区)では19年、柳瀬秀人社長(48)が「男性の育休100%」を会社方針として宣言。以降、子どもが生まれた男性社員5人全員が育休を取得した。
海士部豪さん(36)は19年7月、同社男性社員で初めて育休を取った。長男が生まれた後、会社から提案を受け、最初は「全く頭になかった」と驚いたという。担当のIT業務を任せられる同僚もおり、1週間休むと決めた。
寝かしつけや掃除、日中の遊びを担ったが、今となっては「もっと長く取るべきだった」と振り返る。「あの時の経験があったから、その後も分担する家事は増えたと思う」と充実感をにじませる。
会社にもメリットがあった。社員全体の離職率は14~17年は毎年10%を上回っていたが、19年以降は5%を下回る。21年は売上高が過去最高となり業務量は多かったが、離職率は3・4%だった。ワークライフバランスを重視する学生は多く、新卒採用にも生かされている。
海士部さんは新制度について「子どもが成長していく過程を家族全員でしっかり見守れる。もし後輩が取る時は、経験者の自分が仕事をカバーしたい」と話した。(小谷千穂)