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土砂が流れ込んだ実家の母屋=9月28日、静岡県川根本町文沢
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土砂が流れ込んだ実家の母屋=9月28日、静岡県川根本町文沢
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泥が床を覆うキッチン=9月28日、静岡県川根本町文沢
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泥が床を覆うキッチン=9月28日、静岡県川根本町文沢
土砂に押し流された離れ。見えているのは2階部分=9月28日、静岡県川根本町文沢
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土砂に押し流された離れ。見えているのは2階部分=9月28日、静岡県川根本町文沢

 台風15号による記録的大雨で、9月23日夜から24日朝にかけ静岡県が大きな被害を受けた。広範囲が浸水し、100棟超の住宅が損壊した。豪雨に襲われた同県中部の山間部、川根本町は、私(34)が生まれ育った町だ。実家は大量の土砂が流れ込み、変わり果てた姿になった。被災者になることの痛みをあらためて思い知った。(杉山雅崇)

■電話をかけてもつながらず

 小野支局(兵庫県小野市)にいた先月24日朝、スマホを見ると、実家の妹(31)からメッセージが届いていた。

 「水害にあいました 家に水が入ってきた はなれはつぶれました 家族全員無事です」(24日午前2時38分)

 電話をかけてもつながらない。浜松市に住む兄(35)と地元の役場に問い合わせ、全員の無事は確認できた。ただ、詳しい被害は分からない。道路状況などの情報収集をした後、救援物資を買い込み、26日に静岡に向かった。

■唯一の車道は寸断、車を降りて

 集落につながる唯一の車道は崖崩れで寸断されていた。舗装されていない林道で山を越えることにしたが、峠付近までが限界だった。車を降り、歩いて山を下りた。普段なら静岡市中心部から車で1時間半の距離が2倍以上かかった。

 たどり着いた実家の様子は一変していた。居間もキッチンも、父(68)の仕事部屋も、泥が床を覆っていた。流れ込んだ土砂で、離れと母屋の一部には入ることさえできなかった。

■飼いネコが見つめていた一点から

 家族によると、24日午前1時ごろ、飼いネコが一点を見つめて後ずさりしているのに妹が気付き、母屋に流れ込む黒い水を察知したという。父や母(65)と3人で離れの1階で寝ていた祖母(97)を連れ出し、離れの2階に避難した。

 その数分後、「ドォーン」という音とともに、土砂が建物に流入した。離れ全体が10メートルほど押し流されたという。斜面の反対側にいた4人は無事だったが、父は「九死に一生だった」と表現した。

 大雨の影響で集落の電気、水道、電話は寸断。集落は孤立し、食料やプロパンガスなどの救援物資はヘリコプターで運ばれてきた。

■すべてを泥と土砂が埋め尽くし

 土砂崩れから3日目。スコップを手に取って屋内にたまった土の片付けを始めた。ぐちゃぐちゃになった手紙や書類が混ざる泥をかき出していると、無力感に襲われた。

 母の手料理をほおばっていたダイニング。テレビを見ながら、ほろ酔いの父とたわいない話で笑った居間。祖母がにこにこしながら、私の話を聞いてくれた離れの1階。その全てを泥と土砂が埋め尽くしていた。

 「災害は家族の思いがつまった大切なものを奪う」。取材で知っていたつもりだったが、被災者になって初めて、そのつらさと恐ろしさを理解した。

■今はスコップを手に取るしか

 被災後、知人や友人が次々と声をかけてくれた。

 「みんな助かって良かったっけなぁ」「なにか力になれることがありゃあ、言ってくりょ」。静岡弁の温かい言葉に、陰で何度も涙を流した。

 道路が復旧し、10月1日、集落の全住民は町営住宅などに避難した。

 集落にいつ戻れるのか。自宅の再建は-。さまざまな思いが頭の中をよぎるが、今は泥だらけのレインコートに身を包み、スコップを手に取るしかない。

■台風15号、静岡の被害は

 台風15号で静岡県は記録的な大雨となった。気象庁によると、静岡市駿河区で12時間降水量が400ミリを超えるなど7地点で観測史上最大を記録。川根本町も1時間雨量が99・5ミリに達した。

 同県によると、4日午前10時時点で掛川市と袋井市で計2人が死亡、川根本町で1人が行方不明になっている。静岡市清水区では興津川の取水口に流木が流れ込むなどして最大6万3千戸に断水が発生し、復旧作業が続く。

 全半壊は12棟、一部損壊は97棟。6300棟超が浸水するなど広範囲で被害が発生。静岡市など一部で停電も続く。道路は15路線の22カ所で通行止めになっているという。

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