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 公文書管理の問題は、4年前にも国を揺るがせた。

 「一体どうなっているのか」。2018年5月の衆院厚生労働委員会では、野党議員の厳しい追及を受け、故安倍晋三首相が防戦に終始した。この年は、学校法人「森友学園」を巡る決裁文書改ざんや、陸上自衛隊イラク派遣部隊の日報隠蔽などを巡り、公文書のあり方が問われた年だった。

 そして翌19年。一審札幌地裁で自衛隊に違憲判決が出た「長沼ナイキ訴訟」をはじめ、戦後に憲法判断が争われた重要な民事裁判記録の大量廃棄が発覚した。

 批判を受け、政府は民事・刑事ともに裁判記録の保存と公開に力を入れるようになった。全国の家庭裁判所で永久保存されている少年事件記録を尋ねた神戸新聞の取材に対し、最高裁が「把握している」として公表したのは、まさに4年前、18年度以降に報告された事件だけだった。

     ◇

 神戸連続児童殺傷事件の全記録の廃棄が分かった後、神戸家裁は、少年事件記録の保管や廃棄の流れを問う取材に丁寧に応じた。

 捜査や審判の記録などが含まれる「法律記録」は事件番号順に、家裁調査官の報告書などが含まれる「少年調査記録」は生年月日順に、いずれも記録庫で保存されていた。各記録を管理する別の帳簿もあり、記録の管理業務は厳格に行われていた。

 だが、連続児童殺傷事件の記録が、内規で定めた永久保存と判断されなかった経緯は「不明」と繰り返した。

 複数の法律家は、永久保存にされず、保存期間を終えて機械的に廃棄された可能性を指摘する。同事件で当時、神戸地検の主任検事を務めた男性(69)は「裁判所側にメリットはなく、故意に廃棄したということはないと思う」とした。

 また、裁判記録の適切な保存を訴えるジャーナリストの江川紹子さん(64)は「裁判所関係者にとって事件記録は、自分たちの実務に使う物でしかなく、保存期間を過ぎれば『用済み』の存在でしかなかったのではないか」と推察した。

     ◇

 今年4月に施行された改正少年法では、18、19歳を「特定少年」とし、成人同様に刑事裁判を受けさせる道筋が大幅に広がった。

 刑事裁判は公開の法廷で開かれ、その記録は法律で保管が義務づけられる。これに対し、少年審判は非公開で、記録保存は裁判所の内規にしか定めがない。

 いわば「ブラックボックス」の少年審判で、公正さを裏付けるはずの事件記録が人知れず廃棄されているのであれば、司法手続きそのものに対する信頼が揺らぎかねない。少年法の刑罰化が進む中、事件記録の保存は、少年の立ち直りを重視した同法の精神を支える「見えない柱」でもある。

 最高裁が把握する、史料的価値が高い永久保存の少年事件記録(法律記録)は全国で7件のみ。連続児童殺傷事件の記録を廃棄した神戸家裁は、少年事件ではゼロだった。

 このわずかな永久保存記録と比べ、21年版犯罪白書によると、20年に家庭裁判所で保護処分を受けた少年は1万2806人、少年院に入院した人は1624人いた。つまり、これら少年事件の大半の記録は、彼らが26歳に達すると次々と廃棄されていく流れにある。

 司法文書の保存と公開の重要性を訴えてきた龍谷大の福島至名誉教授(69)は、公文書のデジタル化の流れを念頭に、いったん事件記録を全て永久保存とし、公文書の専門家が必要に応じて一部廃棄する保存方法を提案する。

 「保存の原則と例外が逆ではないか。『なぜ残すのか』ではなく、『なぜ捨てるのか』を考えるべきだ」(霍見真一郎)

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