乗客106人が死亡した2005年の尼崎JR脱線事故で、JR西日本は12日、大阪府吹田市で整備する事故車両の保存施設の完成が、当初予定していた24年秋から1年程度遅れる見通しだと公表した。遺族らの要望を踏まえて計画内容を詰めた結果、設計の変更が必要になったという。
遺族、負傷者に向け伊丹市内などで開いた、非公開の説明会で伝えた。その後、長谷川一明社長が記者会見で明らかにした。
施設は地下1階、地上1階の2層構造で、同社の社員研修センター内に設ける。車両は地上1階で保存し、7両編成のうち損傷が激しく復元困難な1~4両目は車両ごとに部品を整理して配置。原形をとどめる5~7両目は連結された元の状態のまま運び入れる。
地下1階は事故現場を再現するスペースとし、車両、マンションの一部の実寸大の設備、事故の痕跡が残るレールや枕木、電柱の現物を配置するほか、車両がマンションに衝突した場面を実寸大で大型スクリーンに投影する。
遺族らの要望を踏まえ、車両部品の配置などを詳細に検討した結果、建物構造の再計算が必要になったという。長谷川社長は「ひとたび鉄道事故が起きればこれだけ悲惨なことになるということを役員社員それぞれが心に刻み安全を誓う場にする」と述べた。
着工は年明け以降の予定。遺族間でも賛否のある事故現場での保存や、保存施設の一般公開については「現時点での判断は難しく、将来にわたって検討する」と従来通りの見解を述べた。
妻と妹を亡くした浅野弥三一さん(80)=宝塚市=は「遺族の気持ちの問題もあるが(事故を二度と起こさないためという)目的意識を強く持って取り組んでもらいたい」と話した。
説明会は13日も開催する。(西井由比子、谷川直生)