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帆船「みらいへ」の小原朋尚船長(左)に感謝の気持ちを伝える桜井奈津子さん=神戸市中央区波止場町
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帆船「みらいへ」の小原朋尚船長(左)に感謝の気持ちを伝える桜井奈津子さん=神戸市中央区波止場町
3月に三つ目の乗船実習を終え、練習帆船「海王丸」から下船する桜井奈津子さん=神戸市中央区波止場町
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3月に三つ目の乗船実習を終え、練習帆船「海王丸」から下船する桜井奈津子さん=神戸市中央区波止場町

 8年前に神戸の帆船「みらいへ」と出合って船乗りを目指した一人の女性が今秋、3等航海士として、海事関係の会社に就職した。大学では病気と新型コロナウイルス禍が重なり、一時は資格取得に必要な実習の履修が危ぶまれたが、執念で乗り越え、船乗りになる夢をかなえた。見習いとして12月1日から初めて乗るのは海洋地球研究船「みらい」。自身の原点との不思議な縁を感じながら、大海原へと針路をとる。(吉田敦史)

 神戸市灘区の桜井奈津子さん(23)。進路に迷っていた中学3年の時、神戸港であった商船高等専門学校の合同説明会に参加し、その帰りに出合ったのが、神戸に船籍を移し初入港していた「みらいへ」だった。

 船長の小原朋尚さん(49)と桜井さんの母は共に、その20年前にこの船(当時は大阪市所有の「あこがれ」)でボランティアクルー養成訓練に参加した仲。進路相談などで小原さんと交流するようになり、桜井さんの世界は広がっていく。

 津名高校(兵庫県淡路市)3年の時、「みらいへ」の瀬戸内クルーズに一人で参加し、海洋冒険家の白石康次郎さんに「勇敢だね」と声をかけられた。小原さんの誘いでオーストラリアでの帆船航海プログラムも経験。日豪の若者たちと船上生活を通じて交流を深め、船乗りの道を志すようになった。

 小原さんに小論文を添削してもらい、AO入試で神戸大の海事科学部に合格。1年の夏には韓国-ロシア間の国際レース「極東帆船レガッタ」に参加するため、一人で韓国の帆船コリアナに乗り込んだ。2年から海事技術者を養成するコースへ。航海士になるには従来、2年生で1カ月、3年生で2カ月、4年生で3カ月、卒業後に半年間の乗船実習が求められた。

 ところが、2年生の実習を前に、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される「バセドー病」が悪化。医師から参加を止められ、次年度に持ち越すと、今度は新型コロナの影響で2年生の実習が中止になった。一つ目の実習を飛ばして二つ目を履修することはできず、4年生で3学年分の実習を受けるしかなくなった。

 就職活動の面接では、まだ経験していない実習について聞かれることもあり、不利な立場に。それでも、船乗りを目指す熱意を懸命に伝え、1社から内定を得た。4年の夏からは立て続けに三つの実習を受け、今年3月に無事卒業。乗船実習科へ進んでさらに半年間の経験を積んだ。

 10月、3等航海士として「日本海洋事業」に入社。国立研究開発法人「海洋研究開発機構(JAMSTEC)」の研究船の運航などを担う会社だ。

 船乗りの仕事について、桜井さんは「一つのことに誰かと取り組んでいるのが分かりやすい。一人で頑張らなくてもいいんやな、って」と魅力を語る。新しい職場でも「海の調査をしている人と一緒に乗り、縁がいっぱいつながっていくのは楽しみ」と期待する。

 今月1日からの乗船業務を前に、神戸港に停泊する「みらいへ」へあいさつに訪れた。「『みらいへ』との出合いがなければこの道に進んでいなかった。周りの応援に恥ずかしくない働きをしていきたい」と誓う桜井さんに、小原さんは「『みらいへ』から巣立って船員になる第1号。私たちの誇りだ」と目を細めた。

神戸
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