「フィルムカメラは撮れる枚数が決まっている。自然と丁寧に構えます」
神戸市内のカメラ店で取材した埼玉県の会社員前田直哉さん(24)は、しみじみ語った。映像写真部員の記者(25)が仕事で使うのはミラーレスで、フィルムは入社前も縁がなかった。先輩にカメラを借りて、初めてフィルムを買った。
選んだのは、初心者向けと薦められた日中用の富士フイルムのカラーネガフィルムで、36枚撮り1本1650円。先輩には「1本やろ? いま、そんなに高いの」と驚かれた。
指導役のデスクにフィルムの入れ方を教わる。「撮りきるまでフタは開けないように」。そうなのか。とはいえ、いつものカメラなら36枚なんてすぐ撮りきってしまうが。
街に出た。あれ、被写体を前にしてもシャッターボタンが押せない。フィルム代金を1枚当たりに換算すると45・8円。ぐっ、と踏みとどまってしまう。
さらにオートフォーカスではないため、1枚ずつ露光を計算してピントを合わせなければならない。結局、1本撮りきるまでに2日ほど費やした。
写っているのか。フィルム代とは別にプリント代に千数百円。受け取ると、待ちきれずにその場で取り出した。
メリケンパークで撮った神戸港は、見慣れたデジタルの画像に比べると、うっすらもやがかかったような落ち着いた色合いに仕上がっていた。写り込む光は穏やかで、1970年代の映像に迷い込んだような錯覚にとらわれた。
一方で、想定と反して、ぶれたり真っ黒になったりしたコマもあった。
普段スマートフォンなどでメモのような感覚で撮っていたが、一枚一枚考えて、思い出を刻んでいく感じが心地よかった。
「フィルムは、撮った後も楽しかった時間が続くから好きです」と前田さん。手間やお金はかかるし、失敗しやすい。が、ほかにない表現が可能で、何度も思い出をかみしめられる。また挑戦してみようかな。









