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猟銃を手にシカを待ち構える猟師=丹波篠山市内
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猟銃を手にシカを待ち構える猟師=丹波篠山市内
森へ駆け出す猟犬=丹波篠山市内
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森へ駆け出す猟犬=丹波篠山市内
あぜ道を逃げるシカ。この後、川に飛び込んだところを仕留められた=丹波篠山市内
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あぜ道を逃げるシカ。この後、川に飛び込んだところを仕留められた=丹波篠山市内

 狩猟が解禁された15日、シカ猟に同行した。野生動物を狩って、それを食すとはどういうことか-。スーパーで当たり前に加工肉が並ぶ日常では見えてこない現実に、向き合うことになった。動物の「死」によって「生」をつないでいく営みを、2回に分けてリポートする。(那谷享平)

 ■「命の重み」恐怖にも似た責任感

 午前7時半、深い霧に包まれた兵庫県丹波篠山市内。猟師たちは人里と山林の境を歩き、シカの痕跡を探していた。

 「古い足跡しかないですわ」「森を東へ移動したみたいです」「こっちははみ痕がどっさりある」

 無線で情報交換しながら、獣道に残る足跡の向きや、草や土の湿り気、水たまりの濁り具合を見て、「狩り場」を絞り込む。今日は市内東部の小さな山に決まった。

 研修中の新人を含む30~80代までの男性猟師10人がいったん集合し、各自の持ち場を決め、森を囲むように6カ所に散った。「スタンバイ、オーケー」。午前10時前、猟犬担当の丸井康充さん(69)が猟犬4匹を放った。

 「ほれ、行け!」

 おとなしかった大型犬が、急斜面の茂みをはうように駆け登る。本能にまかせた爆発的な動きは、ペットとは別物だ。今回のように、グループ猟で捕まえたシカは主に猟犬の餌になる。狩猟に携わる能力や健康を維持する上で、野生動物の肉は欠かせないという。

 猟師たちは「待ち」の時間に入った。

     ◆

 「ウォン、ウォン、ウォン!」。森の西の方から犬の野太い鳴き声が聞こえた。「もう何かに付いとるな」と山本恭平さん(42)。犬が獣の臭いをたどっているという意味だ。

 首輪には衛星利用測位システム(GPS)がついている。それを基に犬の居場所を確認しながら獲物の動きを予想する。

 犬の鳴き声が東へ遠ざかった。しばらくすると、山本さんのイヤホンに無線の声が届いた。「来たぞ、来たぞ。川を上がっとる!」。別の場所で待機していた猟師たちのやりとりだった。

 無線を聞いていた山本さんが「向こうで仕留めたみたい」と説明してくれた。

 山本さんは猟師歴7年。自身は自動車販売店を経営する傍ら、個人の猟で得た肉は、飲食店や食肉加工場に卸すこともある。義父が生前、飲食店向けに手がけていたイノシシ肉の解体に興味を持ち、やがて狩猟の道に入った。

 人生で初めて自分のわなにかかったシカを見た時は、その美しさに見入った。同時に「この命を今から自分が取るのか」と、恐怖にも似た責任を感じたという。義父の教えは「苦しまないよう、かつ肉が無駄にならないようにしろ」だ。

 山本さんが危険な場所に立ち入る人がいないか見回す。「もちろんシカのことは考えます。それよりもとにかく安全が最優先です」

     ◆

 1頭目のシカを狩ってから約30分後、山本さんの約200メートル西にいた丸井さんが無線で声を上げた。「シカが見えた」。山本さんが「こっちに来る」とつぶやき、銃を握りしめた。筒先は下に向けたままだ。

 ふと、山本さんが茂みへ銃口を向ける。

 後方から見ていて「あれっ?」と思った。「どこにシカが?」。その直後だった。3度、大きく鋭い破裂音がした。

 うわんうわんと耳鳴りがした後、初めて状況を把握できた。シカの尻にあるハート形の白い模様が、約100メートル先のあぜを跳ねていた。弾は外れたようだ。

 「最低限のことはできた」と山本さん。あえてシカの少し前方の地面に狙いを付けたという。「(距離があったため)弾は当たればラッキー。外れても、車道へ向かわないように方向を変えられる。車にぶつかったら大変だから」

 シカは数百メートル先で、死角に入った。しばらくしてその方角の空に「ドーン」とぼんやりとした銃声が響いた。

 「誰かが当てたね」

 1頭目と同様、川へ飛び込んだところに、ベテランのライフルが命中したらしい。十分な収穫を得て、猟は午前中で終わった。息絶えたシカを川から引き上げ、車で別の場所に運んだ。そこで肉を切り分ける作業に取りかかった。

【アーカイブ】
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