尼崎JR脱線事故は、救助に携わった救助隊員らにとっても体験したことがない大惨事だった。従来の資機材の限界、近隣自治体との応援体制…。尼崎市消防局の本田良生総務課長は「事故は、今後の災害救助のあり方にさまざまな課題を残した」と振り返る。
-救助の課題は
快速電車は、マンションの駐車場に突っ込んだため、現場はガソリン臭が立ち込めていた。通常、軽量で持ち運びが簡単なエンジンカッターで車両を切断して救助するが、火花で二次災害を引き起こす恐れがあった。二十キロほどある油圧式カッターなどで作業を進めた。使える資機材が限られ、円滑な救助ができなかった場面もあった。
市消防局には百種類ほどの資機材があるが、火花が出ず、水圧で鉄板を切断できるウオーターカッターは備えていない。各自治体に一つとまでいかなくとも、近隣自治体で貸し借りできる体制は必要だろう。
-他市の応援も多かった
尼崎は、隣接する大阪市と応援協定を結んでいる。大阪からは、救急車も含めて二十台以上の車両が入った。阪神間の他市からの応援もありがたかったが、大都市の消防局の存在は大きかった。
もし大都市と離れた地方で、同様の事故が発生すれば…。あらためて、さまざまな事故や災害を想定した応援協定の必要性を感じる。
現場近くの中学校のグラウンドが臨時ヘリポートになり、中央卸売市場を駐車場に使うなど、応援隊の受け入れがスムーズにできた。応援を受け入れる体制を常に念頭に置かなければいけない。
-事故の教訓や課題をどう伝える
事故後、東京の消防大学校や医療関係者の集まりで、救助にあたった隊員が講演した。本年度中に、十五カ所ほどで話す予定だが、現場で見えた課題を全国に伝えるのも一つの役割だ。
今回、応援隊も含め公務災害が一件もなかった。運がよかった面もある。人を助けようと思えば、やはり隊員の安全管理が必要。尼崎の隊員は、三十時間以上続けて動き、その後は現場の判断で休憩を取った。長時間の救助活動と判断すれば、隊員のローテーションなど疲労を考えた体制が必要。現場での隊員の安全管理も今後、検討が必要だ。
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百七人が犠牲になった尼崎JR脱線事故は、二十五日で半年を迎える。防災、医療、心のケア…。未曾有の大惨事が残した課題について、話を聞いた。
2005/10/24